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日本総研ニュースレター 2009年10月号

先の見えない時代の成長戦略
~シナリオ分析活用による成長ビジョン策定~

2009年10月01日 手塚貞治


「戦略」なんて?
 昨年秋のいわゆる「リーマン・ショック」以降、わが国でも、大企業から中小企業まで一気にリストラモードに入ってしまった。もちろん、リストラも必要であろうが、気になるのは、その背景にあるべき戦略的意図が見えないケースが多いことである。現状対応に窮している向きには、今ここで「戦略」の大切さを訴えたところで、「こんな時期に戦略なんて……」というしらけた反応があるかもしれない。しかしそれでよいのだろうか。
 そもそも経営戦略というのは、こういう厳しい時期にこそ発展してきた。業界構造におけるポジショニングを重視するポーター流の競争戦略論も、組織能力や経営資源の中身を吟味しようという資源ベース型戦略論(例:バーニー、ハメル=プラハラード)も、米国企業が苦境に陥ったのを受けて考案されたものである。特に後者の理論は、当時絶頂期にあった日本企業の強みを検証することから生み出され、実際に彼らの理論と情報技術とをミックスすることによって、米国企業が復活を果たしていくことになるのである。
 このように、「戦略」は高踏趣味的な言葉のお遊びではなく、実務上の切迫したニーズから生まれている。「危機の際には対症療法でやむなし」ということは決してない。

複数シナリオを検討する
 では、この状況下でどのように戦略を立案すべきなのか。
 「環境変化が見えない中で、戦略なんて立てようがない」という声は多い。しかし外部環境の不確実性を前提とした戦略の立案は可能である。その一つの方法が、「シナリオプランニング」である。
 将来起こり得る環境変化を複数のシナリオ代替案として用意し、それに対する複数の戦略代替案を検討する手法である。この手法の歴史は意外に古く、1970年代にロイヤルダッチ・シェル社が同手法を活用し、オイルショックに見事に適応したことで有名になった。
 手順は、基本的に次の3ステップに集約される。
 第1ステップは、「リスク要因棚卸し」である。将来どのような環境変化のリスク要因があり得るのか、棚卸しすることである。マクロ環境については「PEST分析」、業界環境については「5F分析」などのフレームワークを利用することによって、網羅的に検討することができるだろう。
 第2ステップは、「リスク評価」である。そのリスク要因がどれほど自社に影響を与えるのか、どれほど不確実性が高いのか、の二つの観点からリスクの重要度を評価する。
 第3ステップは、「シナリオ作成」である。第2ステップで重要度が高いと評価されたリスク要因について、将来の方向性を検討し、想定される環境変化のシナリオを作成する。
 例えば先ほどの1970年代のロイヤルダッチ・シェルの場合、「石油価格は安定を保つ」というシナリオと、「OPEC(石油輸出国機構)の動向によって価格高騰が起こる」というシナリオの二つを用意した。結果的には、オイルショックが起こり、後者のシナリオが実現したわけだが、事前に戦略的準備を行っていた同社は、オイルメジャーの下位組から2位にまで躍進するに至ったのである。
 このようにシナリオ検討の手順を踏むことで、「決め打ち」ではなく、複数の代替案による戦略ができるのである。

あえて「大きな絵を描く」
 シナリオ分析の形で冷静にリスク評価はした上で、あえて将来に向けての大きな絵を描きたい。「絵に描いた餅」という言葉があるように、「絵を描く」というとネガティブに取る方もいるかもしれないが、人が動くには、何らかの「目に見える」目標が不可欠である。「いいからがんばれ!」「とにかくコスト削減だ!」と言われても、残される道はモチベーション低下による縮小均衡だけである。社員が一丸となって進めるビジョンこそが、危機を乗り越え、さらに成長を促進する経営戦略の根幹となる。ビジョンの方向性としては、どのシナリオになっても共通して目指すべき会社像、あるいは、最も可能性が高いシナリオに重点を置いた会社像を描くということになろう。
 筆者のクライアントの中にも、この厳しい時期に、あえて長期ビジョンを策定しようという企業がある。この時期に目標なきリストラに走るのか、あえて大きな絵を描くのか、その結果は3年後、5年後になって表れてくるだろう。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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