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日本総研ニュースレター 2010年7月号

地域金融機関は再編・再生支援により面的再生を主導すべし

2010年07月01日 丸山武志


地域産業の課題
 近年、顧客のニーズは「多様な商品・サービス」への志向が顕著となり、さらに価格決定権も顧客が握るようになった。企業側がこのような状況に対応するには、企業自身のスケールが重要な要素となるが、地域企業の場合、変事対応力やビジネスモデルを転換するリスク負担能力が不足していることが多く、顧客ニーズに合った商品・サービスの提供が単体では困難な状況にある。
 地域によっては、地域ブランドの開発などに積極的に取り組んではいるものの、全体としての統一感や、「どのように収益につなげるのか」という視点が欠けていることも少なくない。また、仕掛けが公的な助成頼みであること、顧客との接点が単発で収束し継続性がないといった課題も数多い。

地域産業の面的再生の考え方
 疲弊しつつある地域産業を現状から再生させるには、「規模の経済と範囲の経済を両立した面的再生の視点」が欠かせない。「面的再生」に明確な定義はないが、我々は、「面的」を「地域産業の核を作ることをきっかけとして産業の複線化を実現すること」、「再生」を「地域の経済活動量が増加し、拡大再生産が実現すること」と定義している。
 地域産業が面的再生を実現するためには、下記の3つの考え方がポイントとなる。
 ①面的再生の担い手が経済的便益を享受できる仕組み
  面的再生のためには、産業の核となる主体を中心に地域の担い手が一丸となって活動し、その担い手が相応の経済的メリットを享受できる仕組みを構築することが必要となる。
 ②産業構造の変革を受け入れるリスク負担力
  どのような手法や仕掛けにも、失敗のリスクは存在する。よって、取り組みの多様性と撤退の容易性を担保できるリスク負担力をどう担保するかが重要である。
 ③民間の資金がつく枠組みの構築
  相応の仕掛けが必要となる面的再生には、強固な財務基盤(=資金調達力)を備えることが求められる。
 以上を満たす有力な手法と考えられるのは、「持株会社統合を通じた地域産業グループ化」である。持株会社統合は、①企業文化を維持したまま戦略的な事業運営が可能、②事業会社は最適サイズを維持するため、規模の不経済を除去し、機動性を保てる、③事業継続の障害となり得る後継者問題が解決できる、などのメリットがある。

地域産業の面的再生における地域金融機関への期待
 地域産業の面的再生のために、地域産業の重要な担い手である地域金融機関には、以下の役割が期待される。
 ①地域金融機関は積極的な「再編支援」を
 抜本的なビジネスモデルの転換を主導することに消極的な地域金融機関は少なくない。しかし、地域産業の面的再生には、供給過剰の状況を再編によって淘汰し、適正な競争環境に導く必要がある。地域産業の健全な発展のためにも、「持株会社統合を通じた地域産業グループ化」などのダイナミックな再編シナリオは、地域金融機関こそが描くべきと考える。
 ②「チェンジ・エージェント」としてのリーダーシップ発揮
 地域金融機関には、地域の「全体最適」の視点で地域産業のビジネスモデル転換を主導するリーダーシップ発揮が求められる。
 地域金融機関の再編支援には、結果的に企業を淘汰する側面もあるため、自行の業績に一時的な痛みを伴うケースがある。しかし、中長期的な視点に立てば、地域産業の健全な発展と優良与信先の創出につながる。つまり、地域金融機関が再編・再生支援により地域企業の育成を担うことは、リレーションシップバンキング本来の活動と考える。

おわりに
 地域産業が面的再生を実現し、健全な発展を持続させていくためには、顧客ニーズをつかむ仕掛けに取り組み、活かすことができる、リスク負担力を有した担い手(地域産業の核)を創出し、その主体が経済的メリットを確保できる仕組みを構築する必要がある。地域における「ヒト・モノ・カネ・情報」の結節点である地域金融機関は、地域産業のチェンジ・エージェントとして地域におけるそうした仕組みづくりをリードし、短期的な痛みを恐れない、積極的な再編・再生支援に取り組むべきである。

※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません

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