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日本総研ニュースレター 2012年9月号

新興市場進出企業のRHQ機能を強化する「インフラ整備運営」をビジネスに

2012年09月03日 副島功寛


難しさを増す新興市場の現地マネジメント
 日本企業による、新興国への生産拠点整備が加速している。進出目的も単純な低コスト化ばかりではなくなってきており、高成長市場として有望な新興国のニーズに応えるため、生産拠点に現地仕様のデザインやアプリケーション開発を担う機能を整備するなど、生産の高度化に向けた取り組みも進みつつある。従来、こうした動きは自動車等の基幹産業のトップレイヤー企業が中心だったが、昨今は他の業種やサプライヤーに至るまで、海外展開を進める多くの日本企業に広く見られる動きとなっている。
 ただし、新興国はインフレや環境問題など社会環境が未成熟だ。経済成長に伴う人件費の上昇や、エネルギー調達、環境対応等は共通の課題である。さらに近年では、タイの洪水被害やインド、ベトナム等の現地工場における暴動など、生産活動を脅かすトラブルも頻発している。

RHQ機能の重要性とそれを支えるインフラ不足の現実
 つまり、新興市場での生産拠点はコスト競争力確保だけでなく、生産からリスク管理まで、より高度で複雑なマネジメントが必要となった。しかし、そうした役割をすべて担い得る人材を、現地の各生産拠点に配置できる企業は稀だ。従って、周辺の各生産拠点を統括するRHQ(リージョナル・ヘッドクォーター)機能を一箇所に整備し、強化する方が現実的といえる。新興国での展開を急ぐ各社ではRHQを設置し、オペレーション支援・財務管理を軸とした生産拠点向けの既存のサービス機能にとどまらず、サプライチェーンやマーケットニーズ等の情報統括機能や、生産と連携した開発機能、現地での意思決定機能等の強化を進めようとしている。
 一方、新興国はインフラが弱い。例えば、情報統括機能の強化に不可欠なITインフラは、ハードもサービスもレベルが高くない。エネルギーや交通インフラも脆弱で、計画的な生産活動が阻害されている。RHQを設置しても、必要なマネジメント機能を発揮できる見通しが立ちにくい状況だ。

事業機会を生み出す現地とのパートナーシップ
 そこに日本のインフラ事業者の商機がある。工業団地等の現地開発事業者は、進出する日本企業が期待するレベルのインフラ整備および運営のノウハウを持つ企業の助けが欠かせないからだ。製品の販売だけでなく、現地開発事業者の事業パートナーとして継続的なサービス提供ができるインフラ事業者には大きなチャンスといえる。
 現地開発事業者とパートナーシップを結ぶことは、予測し難いリスクが潜む新興国での受注環境を整える意味でも非常に重要だ。発注者・受注者の関係にとどまれば、過去に散々苦汁をなめてきたように、受注者である日本側のリスク負担が重くなりがちだ。しかし、パートナーシップであれば両者による建設的議論を促し、リスク対応を円滑にできる。
 ただし、現地開発事業者とのパートナーシップ形成は容易ではなく、特に、相手が求める価値への理解が必要だ。例えば、インフラ事業者は設備の性能にこだわりがちだが、現地開発事業者はRHQのニーズと開発エリアの価値向上が実現できれば、必ずしもベストの性能は追求しない。
 現地政府からの協力を引き出し、優遇措置等によるRHQ進出支援や、日本のインフラ事業者の参画条件の緩和等、望ましい事業環境を現地開発事業者と協力し整えることも必須だ。大規模な工業団地同士によるRHQ誘致合戦は国家間の競争でもあり、他の工業団地からの提案には、常にその国の後ろ盾があると考えた方がいい。従来の日本のインフラ輸出が軌道に乗らなかった理由の一つは、現地政府からの協力の獲得がうまくいかなかったことにある。
 体制整備も重要だ。現地開発事業者が想定する事業スコープは広く、短期での収益達成を期待される個別の事業部のみでの対応は難しい。インフラ事業者は、クロスファンクショナルな提案体制を組成し、包括的で長期的な視野からの提案を行えるようにするべきだ。
 新興市場におけるRHQの機能強化を目的とした、日本のインフラ事業者と現地開発事業者とのパートナーシップ形成は、まだ始まったばかりだ。しかし、現地開発事業者は、産業集積間競争が激化するなかで開発を急いでおり、特にアセアンでは、2015年の経済統合に向けて動きが加速するはずだ。RHQ側、インフラ事業者側のいずれにおいても、日本企業にとっては、今が新興市場でのポジションを確保する最大の機会といえるだろう。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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