日本総研ニュースレター 2011年5月号
モノづくりにおける「ジャパン」の価値の再構築
2011年05月02日 武山尚道
グローバル競争における「ジャパンブランド」の課題
厳しい海外市場でわが国企業が勝ち抜く上で頼りになるのは、「メイド・イン・ジャパン(日本国製)」「メイド・バイ・ジャパン(日本企業の海外生産品)」のブランド力である。
日本製品は、性能、耐久性そして安全性という、主に品質面での評価が高いが、その品質は中韓に猛追されている。品質レベルが近づいた分野では、価格の安い中韓製品が有利となったものも既に多い。結局、品質や品質を含めたコストパフォーマンスを誇る日本製品も、日本製品というだけで購入してもらえるブランド力は持っていなかった。品質も重要であるが、強いブランド力の獲得には、道具としての価値を超える特別な価値が製品に必要だったのである。
欧州には、歴史、芸術、技術などに裏付けられた国そのもののイメージを背景として、非常に強いブランド力を有し、高い価格を維持する製品が数多くある。工業国が生み出す機械そのもののよさというイメージの上に、各企業がそれぞれ堅実性、スポーツ性など独自のブランド構築を行うドイツの自動車、芸術文化を支えた手工芸品の伝統を引き継ぐフランスやイタリアのファッションや革製品などは、それぞれ根強いファンを持ち、仮に品質面で他国製品に多少劣ったとしても、ファンはそうは思わずに喜んで購入する。また、韓国では国を挙げて歌やドラマの「韓流ブーム」を演出することで「クールコリア」を浸透させ、そのイメージがサムソンやLGの躍進を後押ししている。ジャパンブランドに欠けているのは、そうした国全体としてのイメージ力である。
日本文化への理解獲得から始まるジャパンブランド強化
ジャパンブランドの再構築には、製品の背後にある「日本」が持つコアとなる価値を定義して「モノ」のイメージに結び付け、世界の市場で浸透させる戦略が求められる。
例えば、「信頼性」は、そのコアとなり得る有力な価値である。日本製品の信頼性を構成するのは、一義的には緻密さ、精密さ、正確さ、耐久性、顧客目線による様々な工夫など製品への評価である。その上で日本の物事や社会全般、日本人の暮らし方や気質、礼節、およびそれらが生み出した芸術や宗教など、日本文化に対する高い評価を加えることで、日本製品への信頼を確かなものにすることができる。
新興国で事業を拡大している精密機器メーカーでは、毎年顧客を日本に招待している。会社訪問、展示会の見学および新幹線を利用した観光などを行っているが、来日した顧客は、日本の整然とした雰囲気、マナーのよさ、新幹線の技術や正確性などに驚き、このような国で作られた機械を購入してよかったとの感想を持つという。
また、ある衛生陶器メーカーでは、新興国市場での新製品展開の際に、「生活文化の向上」を提案している。これには日本が誇る清潔さのイメージが大いに貢献しているはずである。
こうした事例からも、信頼性の背景にある日本のトータルな文化を、市場のオピニオンリーダー層を中心とした世界の顧客に強く意識させる取り組みが果たす役割は大きい。
「コード」の設定による信頼性の確保
ブランド力の強化には、規則や規律を定めた「コード」を設定し、製品に反映させることも欠かせない。信頼性に欠けるものを外に出さないためには、緻密さや耐久性、模倣でないこと、ユーザーフレンドリーなど、信頼性の基本になるコードを定め、ジャパンブランドを名乗る製品に徹底させる必要がある。欧州のワインなどのように、国内でも原料、製法からデザイン、売り方に至るコードを定めている地域ブランドも存在するが、国の後押しで海外展開を図ろうとする「ジャパンブランド」製品の多くは、こうしたコードに関する考えが希薄なようであり、強化が急務である。さらに、日本製品であることを一目で分からせる、製品デザインのコードを制定・運用すれば一層効果的である。
各地域や業界の協力・連携の下に息の長い取り組みを進めるには、現在の国のプログラムは多数の省庁が関係しているが、司令塔が不在であるため、全体としての戦略性に欠ける。中には省庁による補助金のばらまき的なものもないとはいえない。今後は、「ジャパンブランド推進本部」のような組織を政府機関の中に設置し、対象とする地域・業界・製品の選定や戦略策定をはじめ、実行プログラムの作成、関係省庁や機関等の役割配分、予算の算定と確保までを一手に担わせることも検討するべきであろう。
※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示