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日本総研ニュースレター 2011年1月号

花の係長とピラミッド型組織の復活によるチーム力の向上

2011年01月04日 高橋敏浩


係長ポストの復活
 トヨタ自動車では2009年、20年ぶりに係長クラスのポストを復活させ、話題をまいた。1万5千人が所属する技術開発部門で、入社10年前後の社員約1千人を係長職に登用。彼らに一定の権限を付与し、5人程度の部下を持たせて日常の管理や指導を徹底させるものである。
 現在はまだ試行段階であるが、2011年3月までに効果を検証し、定着度合いを見定めた上で、係長職の処遇や正式呼称を決定する計画となっている。

文鎮型フラット組織の失敗
 トヨタがこの改革に着手したのは、部長・副部長・次長・課長・副課長・係長の重階層であった組織を部・室・グループに移行するという、1989年に導入した文鎮型フラット組織の失敗が原因である。
 同時期に改定した評価制度も、人材育成や目標達成に役立たなかった。プロセスにおける従業員の行動を把握することでパフォーマンス向上を図るコンピテンシー評価制度を導入したのだが、大くくりの組織で30人規模に拡大したグループでは管理職が部下の行動を十分把握することが難しかったのである。

フラットな組織では管理職が育たない
 トヨタ以外の多くの企業でも、この10数年間、意思決定と課題対応の迅速化を狙ってピラミッド型組織からフラットでフレキシブルな組織への転換を進めてきた。イントラネットの普及も後押しし、単なる内部情報の伝達役としての中間管理職は不要とされた。社員は係長や課長を目指すのでなく、プレーヤーに徹して成果を上げることが求められた。
 ところがこうしたフラットな組織では、現場の小グループで後輩指導やマネジメントを体験する機会が乏しく、組織的な管理職の育成が難しい。一方で少子高齢化と人件費の変動費化によって雇用の多様化が進んだため、企業内教育は人材の質を均等に底上げさせる教育から、対象者やテーマを絞り込んだ選抜・選別的な教育にシフトしている。結果として、本来は強化されるべき管理職やその候補者向けの階層別教育は、逆に後手に回りがちとなっている。
ツケは現場力の低下に
 就職氷河期で新卒採用の抑制が続き、後輩を持たないままリーダークラスに到達した中堅が、一回り以上若く、厳しく教育されたことのない「ゆとり世代」を直接指導する立場にあることも、管理職の負担増大を招いている。
 マネジメントの負荷が以前より相当大きくなっている一方で、「名ばかり管理職」で喧伝されたように処遇が見合わないことも多い。筆者のコンサルティング先の顧客においても中堅社員は「管理職にはなりたくない」という忌避傾向が強い。「ポスト・チャレンジ制度」を持ちながら挑戦者がなく、会社からの任用のみになっている企業さえ存在する。
 結局、組織のフラット化を推進する改革は、人材育成のスピードを遅らせ、昇進・昇格インセンティブの効果を弱めてしまった。そして、現場のチーム力を弱めて競争力の低下まで招いたのである。トヨタが係長ポストを復活させたのも、戦後初となる2009年3月期の営業赤字や、大量リコールという品質問題の発生は、人事改革の混乱による現場力の低下が一因と考えられるようになっていたからである。

管理職候補育成でチーム力向上へ
 トヨタ以外では、シャープが2007年から係長を、日本銀行が2009年に局室長の下に課長をそれぞれ復活させた。係長と課長では管理スパンや役割が異なるが、行き過ぎたフラット化・大くくり化の見直しとしては軌を一にしている。
 係長クラスが小グループのリーダーとしてマネジメントをサポートする経験を積むことは、一人ひとりのメンバーに方針を浸透させ、チーム力を向上させるためにはもちろん、係長クラスを中堅社員から管理職に成長させるために非常に有効である。次世代リーダーが育たないと悩んでいる企業は少なくないが、組織的にそれを作り出す機会を潰してきたことは大きな損失である。
 モチベーションの源泉として評価の納得性が求められており、プロセスの行動を引き出しかつ評価できる存在として、現場のリーダーの役割はますます高まる。係長とは郷愁を呼ぶ呼称ではあるが、古き良き時代への単純な逆戻りではない。係長は管理職につながる身近なキャリア・ターゲットして若者の目指すべきポストでなければならない。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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