日本総研ニュースレター 2012年2月号
真の地域活性化はユーザビリティの視点に基づくまちづくりにあり
2012年02月01日 丸山武志
現在の地域活性化の議論の問題点
多くの地域で活性化策が検討され、取り組まれているが、成功例は少ない。この地域活性化という古くて新しいテーマが行き詰まる最大の要因は、民間企業なら当然検討する「ユーザビリティ(受益者目線)」を欠くケースが非常に多いことにある。「自らの技術を集めて作れるモノをどのように売るか」を検討しても、「顧客ニーズに合わせてモノやサービスを作って売る」ことは検討しないため、結果として売れないモノやサービスばかりが開発される。
ユーザビリティに基づくテーマ探しの視点
地域を取り巻く環境はそれぞれ異なるため、「万能なテーマ」は存在しない。そこで、以下の2つの視点に従って、ユーザビリティに合致するテーマを探すことが不可欠となる。
(1)「常住者にとって魅力的」なテーマの探索
地域活性化の取り組みでは主に「交流人口の増加」が目的となる。よって、創出される商品やサービスは観光客等、他地域から来る人々専用に作られ、地元に住む人々は決して利用しないものも多い。これは、「常住者は労働力であるが顧客ではない」という意識の強さが原因である。しかし、本来ビジネスを継続的に成立させるには「移り気でいつ来るか分からない人々」だけではなく、当該エリアに居住する人も顧客としてとらえることが重要である。また、常住者の市場というと一般的な行政区域を想像する人が多いが、モータリゼーションの発達した地方の経済活動エリアは広く、域内経済規模は思うより大きい。高崎市を例にとると、同市の人口は約37万人であるが、車で30~60分圏内に前橋市(34万人)、桐生市(12万人)があり、広域で見ると83万人が「常住者」として定義できる。つまり、地域の人々が考える以上に常住者の市場は大きい。
(2)他地域の人が抱く「その地域に求める理想」の創出
地域への定住促進や交流人口の増加が目的の場合、他地域の人がその地域に求める理想をいかに先鋭的に整備するか、という点もポイントとなる。例えば「株式会社庵(京都市)」は、京都の町屋を高級宿泊施設にコンバージョン(外観は古民家である町屋の良さを活かし、中は冷暖房完備でベッドルーム付)し、併せて日本文化体験プログラム(狂言や華道等の師範を講師に本物を体験できる施設)を提供して人気を集めている。これは、地元の事業者が「当たり前」と思っているものを、「外部の人(他地域、外国人など)の目線で見直し、「外国人が理想として描く日本のイメージ」を先鋭的に表現したものといえる。庵の取り組みは口コミで外国人に広がり、1泊(1棟)100千円の高価格帯でありながら、外国の要人や国内富裕層が宿泊に訪れ、地域のブランド向上にも貢献している。このように、域内の人の思いだけでは顧客のニーズを超えることは出来ない。他地域の人がその地域に求めるニーズをくみ取り、実現することが重要である。
外部と連携し事業を開発・企画
従来、地域における事業開発(=活性化)は大企業が企画をし、地域事業者がその要件定義に応えることで実現されてきた。そのため、地域事業者だけでは、事業開発のノウハウはなく、また、あっても属人的であり継続性も再現性もないケースがほとんどである。
そもそも地域の産業振興は、民間企業でいう事業開発であるにもかかわらず、地元の担い手の多くは本業の片手間で行っている。また、活動は、商工会等の互助組織が行うことが多いが、これらは合議制の「ヨコ組織」であるため、「事業に責任を負う旗振り役」が明確になりにくい。
結局、「ユーザビリティの視点」が重要であることを理解したとしても、地域事業者にとって事業企画を主体的に行うことは現実的には難しい。つまり、地域活性化の事業を進めるには、新しい取り組みを発想し、コーディネートする「企画機能」の強化を図るため、地域事業者には外部と積極的に連携することが求められる。
なお、従前の経緯から見て、地域と関与の深い大企業は、この企画機能を積極的に担うべきと考える。これまで多くの大企業がCSRとして地域に多額の「寄付」をしてきたが、今後は資金のほか、自社の持つ情報や企画・コーディネート力を活用し、地域事業を推進する役割への発展を期待したい。エリアの経済活動量を増加させる、こうした関与こそが、地域に必要とされる大企業の活動ではないか。
※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません