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日本総研ニュースレター 2014年4月号

中国におけるエネルギー構造調整と電力体制改革の動き

2014年04月01日 王婷


エネルギー構造調整が電力体制改革を促す
 地球温暖化対策、省エネ、大気汚染防止など重要な環境政策テーマを抱える中国政府は、2013年1月に「エネルギー発展 12 次 5 カ年計画」を発表した。大気汚染と地球温暖化をもたらす主因といわれる石炭を中心としたエネルギー構造から、本格的に脱却する姿勢を示す内容だ。この計画には、エネルギー消費の総量を規制し、石炭消費量の割合を現在の約70%から2015年には65%にまで削減、一方で非化石エネルギーの消費量を11.4%に増加させるなどの目標が定められる。また、再生可能エネルギー導入や分散型エネルギー利用の促進も掲げられている。

中国電力供給体制とその問題点
 しかし現実には、これら新規事業の開発に電力供給体制が適応できていない。今の電力供給体制では、再生エネルギーも分散型エネルギーも導入促進の際に、系統接続困難や売電料金が安いなどの問題が起きている。中国では、2002年の発・送電分離改革の結果、5大発電会社と2大送配電会社による電力供給体制となった。発・送電分離の実現で、発電側には競争原理の導入に成功したものの、2社しかない送配電会社は送電、配電が一体のままで、独占経営の体質は依然変わっていない。
 さらに、「一つの電気供給地域に電力供給者一社を設立可能」という電力法25条によって、電網会社以外に新たな電力供給事業者が市場参入できない状態さえ作られてしまっている。
 そのため電力料金の形成メカニズムは不十分なままだ。現在でも、系統売電価格と小売電力料金は政府によって決められ、発電側の事情や努力は消費側の電力料金に反映されない。例えば、環境への影響を評価する料金システムは存在せず、発電コストの高い水力発電などについても一律の売電価格が適用されるため、事業の経済性が悪い。石炭などの相場変動も小売料金に反映されず、発電すればするほど発電会社が損することもしばしばだ。現在計画中の、天然ガスによる分散型エネルギープロジェクトも、ガス価格の上昇で事業化に黄信号が灯る状況だ。

電力改革の方向性とその影響
 中国政府も電力供給体制の問題の解決を急ごうとしている。2013年11月に中国共産党第18期中央委員会第三回全体会議(三中全会)で採択された「改革の全面的進化における若干の重大問題に関する中共中央の決定」では、エネルギー分野において市場化を軸とした改革方針を示した。それは、市場競争の原理が見込める事業を公共サービスである基礎インフラから分離し競争させ ②公共資源配置の市場化を推進 ③石油、天然ガス、電力の価格改革を実施し、価格は市場に任せる、といった内容だ。
 中国では、実は2002年に発・送電分離、送・配電分離による完全市場化を目指す改革案が発表されている。しかし、そのうち送・配電分離については、公共性と競争性とをうまく切り離せず、むしろ小売側の改革を深める議論が主流になりつつある。
 2014年1月に国家エネルギー局が公表した「2014年エネルギー工作指導意見」では、「発電会社と需要家による電力の直接取引と小売側の改革を推進し、柔軟な電力料金形成メカニズムと送配電の電力料金を改革する」ことを重要任務として位置づけている。
 国家エネルギー局の関係者によると、送配電会社による統一的な買い付けや販売の体制を変えて、送電と配電を独立させ、送電側は電力の輸送のみを役割とし小売は行わない、などが制度改革の趣旨だ。また、独立した送配電の料金システムを構築し、系統への売電価格や小売価格の自由化を行うことで、市場に基づく小売料金の形成を図っていくのだという。
 日本では小売だけを先に自由化したが、発電・送電・配電が一体の電力会社が圧倒的に強い構造が温存され、新規参入できた民間事業者はわずか3%に留まる。しかし中国の場合は既に発・送電分離は実現しており、日本よりもアドバンテージがある。今後さらに小売の自由化を中心に電力業界全体の競争を導こうとする新しい試みは成功へ向かうだろうか、注目したい。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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