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日本総研ニュースレター 2014年3月号

個人向け交通サービスは「インターネット広告」に進化する

2014年03月03日 浅井康太


自動運転技術がもたらす交通サービスの低廉化
 自動運転技術の進化が続いている。例えば、2017年の自動運転技術の実用化を目指す米グーグルは、既に走行距離50万kmを超える公道上の実証実験でデータを蓄積しており、日本でも2020年の実用化を目指す日産をはじめ、官民を挙げて自動運転の実現に積極的に動いている。
 自動運転技術の最大の価値は、輸送業界のコストの大半を占めるドライバーの人件費を圧縮できることだ。特に人件費の比率が高い個人向け交通サービスの料金は劇的に安くなり、気軽に利用できるものになると予想される。

個人向け交通サービスは「広告媒体」化する
 料金が著しく下がることで、これまで考えられなかったサービスも生まれてくる。例えば、オンラインで広告を出し、クリックして申し込んだ利用者のところまで自動運転車両が迎えに行き、店舗まで送り届けるサービスだ。もちろん、有人のタクシーでも仕組みとしては可能だが、乗車料金がかかり過ぎて利用しにくい。しかし自動運転のタクシーであれば料金がかなり抑えられるため、利用者は広告で高まった購買意欲を即行動に移しやすい。店側にとっても乗車料金分のポイントを利用者に返すといったサービスを提供しやすくなる。
 つまり、無人運転技術によって、個人向け交通サービスは一種の「インターネット広告」媒体へと進化し得るのだ。これまでのインターネット広告とは、クリックすることでオンライン店舗が現れるか、実店舗に自動運転車両で自ら出向くことになるかの違いだけだ。前述した乗車料金分のポイントサービスも、通販でいう「送料無料」サービスと同種のものだ。一見、畑違いのグーグルが自動運転の実証実験に力を入れる理由は、低廉な個人向け交通サービスが備える、広告媒体としての可能性にいち早く気付いたからと考えられる。
 既にプラットフォーム競争は始まっている。グーグルの自動運転装置では、ハードウェアの多くは市販の機器を活用するが、制御の核となるソフトウェアは自社での開発に力を入れる。そして、市販の機器を組み合わせて自動運転用の車載器を開発する事業者に、このOSのソースコードを公開することで、スマートフォンのアンドロイドOSと同様に、自動運転車両のプラットフォームの主導権を握る戦略だろう。
 グーグルは2014年1月、自動車向けのアンドロイドOSを自動車に搭載するために、ホンダやアウディ、GMなどが参加するOAA(Open Automotive Alliance)という団体を立ち上げている。自動運転を前提としない、カーナビやカーオーディオなどの車載情報端末のOSではあるが、自動車の一部に自社OSの組み込みを進めることで、将来への布石を打つ計画と考えるのが妥当だろう。

単純な「移動」を超えた、多機能な地域交通インフラに
 自動運転車両が普及すれば、広告媒体としての価値の高さも含め、まずはビジネス面での発達が予想される。低廉な個人向け交通サービスによって人々の往来が増えれば、それだけ街に賑わいが取り戻され、地域に経済的な効果をもたらすだろう。
 自治体関係者からは、地域の新たな交通インフラとしての発達も期待されている。また、多くの研究が指摘するように外出頻度と健康には高い相関関係があることから、高齢者の外出を促進させるサービスの開発が保健福祉分野では注目される。さらに、自動運転車両は地域内を高頻度で巡回する車両にカメラを搭載して防犯見回りをしたり、振動センサーから補修するべき道路を把握したりすることなども可能であり、非常時には、周辺との情報連携や「冷静な判断力」を生かした避難用車両としても活用できるようになるだろう。
 自動運転技術が確立すれば、地域の新たなインフラとして機能していくことは間違いない。しかし、サービスを提供する側には、個人情報の扱いや過度な広告への規制等の課題が山積している。また、インターネット黎明期に登場したビジネスにそれまでの法律が対応できなかったように、自動運転を核とした新しいサービスの実現には既存の法律では間に合わず、改正が必要だ。
 自動運転の実用化にはまだ時間が必要だが、実現すればビジネスや生活に大きな影響を与える存在になる。官民協働で、自動運転車両の特性を生かしたサービス開発や法律整備等に、今のうちから取り組むべきではないか。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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