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日本総研ニュースレター 2013年11月号

自動運転が「EV失速」の二の舞とならないために

2013年11月01日 宮内洋宜


普及がはじまった自動運転
 「自動運転」は、今、自動車産業の中で最も注目される技術の一つだ。自動車会社からの発表や報道が相次いだことでまさにホットトピックとなっている。安倍首相が公道実験に同乗するなど、成長戦略の一つとしての期待も高い。
 自動運転は、衝突回避ブレーキを含むクルーズコントロールやレーンキープアシストといった運転支援技術から発展した技術だ。特に衝突回避ブレーキは、富士重工業(スバル)が「ぶつからない車」という分かりやすいキャッチフレーズのもとに価格を抑えた商品をヒットさせたのに続き、搭載する車種やメーカーが増えた結果、今では軽自動車にまで搭載されるようになった。自動運転は私たちにとって身近な技術となってきている。既に運転者が全く操作せずに自動車を走らせる「完全自動運転」の実験も繰り返され、人々の関心はいつどのように実用化させるかの段階にある。

既存市場では進歩が滞る恐れも
 国内における実現へのロードマップは、国土交通省「オートパイロットシステムに関する検討会」の中間とりまとめに整理され、検討会では運転支援の高度化への議論が進む。しかし、「自動車の運転は運転手が責任を持つ」という原則は崩しておらず、自動運転はあくまで「補助」としての位置付けにとどめられている。状況が限定的で、比較的技術難易度が低い高速道路上での運転支援を対象とした検討は行われたが、完全自動運転やイレギュラーな要素の多い市街地での自動運転導入の議論は、ほぼ白紙の状態だ。
 自動運転を補助の役割に押しとどめることは、現在の技術や法制度との兼ね合いからやむを得ない面もある一方、自動運転技術の健全な発展を阻む懸念もある。例えば、前方不注意や居眠り運転を防ぐための運転者のモニタリングや、常に車を運転者のコントロール下に置くためのインターフェース(自動運転と手動運転の切り替え方法)が議論されているが、これは運転の主体が運転手であることが前提の議論であり、自動運転にもかかわらず運転手は自ら運転するのとあまり変わらない緊張を強いられる。さらに、最終操作を人に委ねると、「負担を低減する」「人の能力を補う」「ミスをカバーする」という自動運転が持つ効用と矛盾してしまう。また、システムには故障や誤作動がつきものであり、「絶対」はないということを考えれば、万が一の際の被害が大きい高速道路での実用化を先行させることは、フェールセーフ、フェールトレランスの観点から疑問を感じる。
 革新的な技術を活かすには、既存の商品やサービスとは切り離された、全く新しい市場が必要な場合もある。電気自動車(EV)が大きなポテンシャルを持ちながら普及が進まないのは、既存の自動車の延長線上あるいは同列に位置づけられたために、航続距離や充電インフラに難がある不完全な自動車とみなされてしまったことが大きい。EVは、特に航続距離の面において今でも既存の自動車の性能に追いつくよう開発が進められているが、本来ははじめから全く新しい交通のあり方を提案し、それを実現させるための乗り物という方向で開発を進めておけば、独自の市場を早くから確立できたのではないか。

新市場を創る試み
 2013年10月、日本総研は、地域における交通サービスを検討するCommunity Oriented Stand-by Mobility Service (COSMOS)コンソーシアムを立ち上げた。COSMOSは、地域の活性化や付加価値向上の実現を目的に、近所の目的地まで安く手軽に安心に行ける移動手段と、外出の目的を作り出す仕組みや人を介するコミュニケーションを活発にする仕組みを組み合わせたサービスだ。乗り物はユーザーが個人で所有するのではなく、ユーザーを含む地域の関係者で共有・運営することで各個の負担を低減することを想定している。ここに自動運転技術を組み合わせることで、きめ細やかなサービスをより多くの人々が活用できる。こうした仕組みの実現に向け、COSMOSでは約10の自治体や地域コミュニティ、および約20社の民間企業の参画を得て、検討を進めている。
 完全な自動車任せの自動運転は、「漫画やSFの世界」と感じるかもしれないが、実は現在の技術はその空想を現実にするだけのレベルに近づいている。あるべき姿に技術者や法制度関係者等が正面から向き合えば、自動運転技術を核とした新しい交通システムの実現が近づくのではないか。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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