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日本総研ニュースレター 2013年2月号

固定価格買取にあわせて地域「新電力会社」の設立を

2013年02月01日 丸尾聰


再生可能エネルギー発電設備が申請ラッシュ
 昨年7月に施行された固定価格買取制度を受けて、全国各地域から、再生可能エネルギー発電設備の申請ラッシュが続いている。施行後5カ月間を経た昨年11月末時点の認定件数が18.7万件、総出力が364.8万キロワットに及び、10キロワット未満の小口太陽光発電設備を除くと、認定件数は2.1万件に減るが、総出力は292.1万キロワットある。
 これは、原発の稼働停止のほか、燃料の高騰や供給の不安定さを懸念する声が製造業を中心に広がっていることを受けた各地域の行政が、エネルギー自給を目指す動きを活発化させているからだ。具体的には、再生可能エネルギー設備の普及啓蒙を図るセミナーの開催をはじめ、設備設置の適地情報の提供、市民ファンドの組成などの実施によって、地域内でのエネルギーセキュリティを担保しようとしている。

地域の「新電力会社」の設置で発電と需要をつなげよ
 しかし、発電設備だけでは、地域の需要家に安定かつ安価な電力を供給することはできない。本稿では、地域のエネルギーセキュリティを担保するために、発電と需要とをつなげる仕組みとして、地域の大口需要家が共同して出資・経営する「新電力会社」を地域に設立することを提案する。将来の発送電分離と小売り自由化を見据えたビジネスチャンスの先取りとして、以下にそのシナリオを述べる。

1. 再生可能エネルギーを固定価格で買う
固定価格買取制度によって、電力会社等は固定価格での電力買い取りを義務付けられるが、一方で費用負担調整機関から買取交付金を得られる仕組みとなっている。太陽光発電で1 kWhあたり42円という買取金額に目が行きがちだが、買取交付金も高額であるため、実は買い取る側のメリットも大きい。新電力会社にとって、固定価格で買い取ること自体が大きな収益源となる。
2. 電力は地域の行政や企業へ売る
新電力会社が積極的に固定買取を行うには、需要家の確保が必要となる。製造業など需要家の立場に立てる出資・経営母体が地域の企業にアピールすることで、拡販は進むはずだ。さらに、地元の行政が大口需要家の一つとなることも大いに期待できる。
3. 家庭の需要を囲い込む
割安な高圧電力を共同受電し、家庭向けに変圧・分電して安価に電力供給することは、現行法制度下でも可能だ。こうした共同受電の仕組みを活用し、マンションから家庭用低圧の需要家の囲い込みを手掛ける。それによって、小売り自由化後の競争に先手を打つことになる。
4. 安定電源を確保する
地域の再生可能エネルギーのうち太陽光や風力などは、ベース電源にならないため、地域の新電力会社としては、火力等の安定電源も獲得したい。そこで、設置の必要性は認識するものの設備投資や運転コストがネックで二の足を踏んでいる地域の製造業に、自家発電の設置や非常用発電の常用化などを促す。新電力会社は、これらの製造業から余剰電力を購入する。
5. 電力を買い増す
地域によっては、独立系の卸電力事業や行政による公営電力事業が存在する。新電力会社は適正価格を提示し一層の電力量を確保したい。これまで割安な価格で販売することが多かった、電源を保有する地域の行政や卸電力事業者の収益性も上がる。
6. 関連ビジネスを創出する
需要家と電源がそれぞれ増えていくと、地域の新電力会社は、安定運転のためのより高度な電力マネジメントノウハウが必要となる。電源の運転代行、需要家開拓の代理、ピークシフトのための省エネや蓄電のサービス、需要家を束ねて融通するサービスなどだ。これらのサービスを地域内の企業が担えるように、地域の行政が支援することが望ましい。


自由競争市場を見据えた長期的メリットを目指せ
 国から次々打ち出される、エネルギーの「地産地消政策」の短期的なメリットの享受に走るのではなく、固定価格買取制度の終了後の自由競争市場を見据えた長期的なメリットを目指し、戦略的に活用していきたい。地域内の需要家のために、安定で、かつ安価なエネルギーを提供することから、さらに余剰電力を地域外に販売して「外貨」を稼いだりすることも重要だ。電力ビジネスに関わる企業にとっても、先行してノウハウを蓄積していくことが、自由競争に生き残るための必要条件だ。それが成功すれば、地域のエネルギーセキュリティを確保するばかりでなく、雇用創出や経済振興などの経済的メリットをももたらすであろう。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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