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日本総研ニュースレター 2014年5月号

中国の「民営病院」は新たな投資市場になるのか

2014年05月01日 厳華


冷遇されてきた中国の民営病院
 病院や医師など医療サービスの資源が不足する中国では、抜本的な医療改革が進められようとしている。その一つが民営病院の促進政策だ。民営病院への投資促進を目的に、2010年末、それまで禁止されてきた外国民間資本による民営病院への投資が許可制となった。設立に関しても、中国との合弁であれば審査が緩和されることになった。
 長い間、中国の医療の中心は公立病院で、民営病院は陰の存在だった。民営病院の8割以上は小さな診療所であり、病床数は中国全体の1割に過ぎない。民営病院がこれまで成長してこなかったのは、以下のように冷遇され続けてきたからだ。
 1)レベルの高い医師の確保が困難
 公立病院を離れると医師としてのキャリアパスが中断されるため、医師はなかなか民営病院への移籍に応じようとしない。また、他の病院とのかけもちには所属する病院の許可が必要になるが、所属する病院でも人手不足に苦しんでいることが多いため許可を出さない傾向が強い。そのため、かけもちで応じてくれる医師でさえ確保が難しい。
 2)患者が集まりにくい
 民営病院にはレベルの高い医師が少ないため信頼度が低く、患者が集まりにくい。そのため、仮に優秀な医師を確保できても、その人件費に見合うだけの患者の確保は容易ではない。
 3) 厳しい経営条件
 民営病院には医療保険がほとんど適用されず、患者負担が重いことも競争上不利に働いている。また、2012年まで民営病院は「営利病院」としてしか設立申請ができなかった。営利病院は一般的なサービス企業と見なされ、公立病院よりも税負担が重い。そのほか、許認可手続きの煩雑さや用地取得の難しさなど、公立病院に比べ多くの面で不利な扱いを受けている。

中国の民営病院への投資が活発化
 中国では大多数の医師が公立病院の従業員であり、その人事権は地方政府が握る。その状況下で、地方政府に既得権益を放棄させ、民営病院の発展を推進するのはかなり困難に思える。
 しかし、前述のように中国政府は民営病院の発展に力を入れ始めており、「新病院の建設は公立病院より民営病院(外資系含む)を優先」「医師の多拠点就業制限の撤廃」「非公立病院の診療報酬の自由化」などの政策を次々と進めている。さらに、2013年10月には健康・医療サービス事業への参入制限を徐々に廃止することを国務院が発表したことで、民営病院への投資は急速に盛んになってきた。既に大手医薬卸や不動産会社、そして投資ファンドなどが今後の成長性に目を付けて投資を始めており、日本でも投資を検討する企業が増えている。投資の動機もさまざまで、病院事業単体としての収益確保を目指すケースも、製薬や医療機器事業との相乗効果を出すプラットフォームとして病院事業を手がけるケースも見られるようになった。

リスクを抑え、合理的な投資判断を
 目的により必要投資額や投資回収期間は自ずと異なるが、いずれにせよ、病院運営は決して短期での投資リターンを期待できる事業ではなく、中長期の視点に立った投資となることを念頭に置く必要がある。
 また、中国での民営病院経営のリスクは未だ低くはない。合理的な投資判断を行うには、医療改革のモデルプロジェクトに参加して主催する地方政府との関係を構築したり、産婦人科や小児科など既存の公立病院だけでは不足する領域に専念したり、評判の高い病院との医療連携で医師を確保したりしているかなどについて、十分な監視が必要だ。
 運営や管理で失敗する企業も少なくない。河南省や江蘇省で5件の病院を買収した元中華系大手医薬・紡績グループは、経営ノウハウ不足で事業が立ち行かず、最後は他社に統合された。一方、日本の歯科医療グループである徳真会は、日本の技術・運営をリーズナブルに提供して成功し、既に中国国内に10箇所の直営クリニックを展開させた。医療でも日本のノウハウは強い競争力を持つものとして随所で参考にできそうだ。
 中国の民営病院への投資は簡単ではない。が、経営への監視や関与によって、リスクを想定内に抑えることも可能なのではないか。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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