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CSRを巡る動き:有価証券報告書の「事業等のリスク」開示にみる企業のリスク認識の変化

2015年01月05日 ESGリサーチセンター


 日本の上場企業が、事業年度ごとに作成することが義務付けられている有価証券報告書には、「事業等のリスク」を記載する欄が設けられています。これは、2003年に行われた「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正によって追加されたもので、2004年3月期の有価証券報告書から開示が義務化されました。財務状態・経営成績・キャッシュフローの状況の異常な変動など、「投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のあるリスク」を、一括して具体的に分かりやすく、かつ簡潔に開示することが目的とされています。投資家にとっては、企業の事業に関連するリスク認識を知る上で、重要な情報の一つといえます。

 「事業等のリスク」開示の仕組みが導入されて以来、すでに10年が経過していますが、この間、環境問題や社会問題に関連する事項をリスクとして記載する企業が確実に増えてきています。日本の主要産業の一つである電気機器業種について、東証一部上場企業141社を対象として、2006年1月期から12月期における有価証券報告書と、2013年1月期から12月期における有価証券報告書の記載内容を比較したところ、気候変動や水不足などの環境問題に言及する企業が2006年時点では34社だったのに対して、2013年には48社に増えていることが分かりました。特に、2006年時点で気候変動という言葉に言及している企業は一社も存在していませんでした。さらに、労働争議や人権問題に言及している企業は、2006年時点ではわずか3社だったのに対し、2013年には12社に増えています(注)。

 もちろん、景気や為替・金利動向に関するリスク、原材料の価格動向等に関するリスク、あるいは品質問題に関するリスクなどに比べれば、環境問題や社会問題に関連する事項をリスクとして挙げる企業は依然限定的ですが、企業のリスク認識における変化は確実に現れています。その背景には、気候変動や資源枯渇を初めとする環境問題が益々深刻化し、様々な悪影響を実感する企業が増えてきたことが考えられます。また、企業の海外展開の拡大に伴って、労働争議や人権問題などの社会問題に直面する企業が増えてきていることも一因として考えられます。すなわち、企業を取り巻く様々な外部環境の変化に伴って、環境問題や社会問題が企業価値の毀損や株価の下落に繋がるリスクであると、企業が認識するようになってきたことを示唆しています。実際、環境問題や社会問題への対応のまずさが、企業価値の毀損や株価の下落を引き起こす事例は増えてきています。

 投資家の側もこうしたリスクへの対応を強化することが求められています。2014年2月に政府が策定した機関投資家の行動規範「日本版スチュワードシップコード」は、環境問題や社会問題に関するリスクを含めて投資先企業の状況確認に努め、必要に応じて「株主エンゲージメント(投資先企業との対話)」を通じてリスクの回避・低減を図ることを機関投資家に要請しています。2014年9月時点で、すでに160の機関投資家等が同コードの受け入れを表明しており、今後、企業における環境問題や社会問題への対応状況が、企業と投資家の対話における重要な論点の一つとなることが予想されます。

(注)「事業等のリスク」開示は、2004年3月期の有価証券報告書から義務化されたものであるが、導入直後は記載内容に関して企業側も試行錯誤を行っていたと考えられるため、制度が一定程度定着したと考えられる2006年の開示情報を比較対象として用いた。
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