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CSRを巡る動き:グリーンボンドは気候変動対策の促進策となるか

2014年12月01日 ESGリサーチセンター


 気候変動は現実の問題として、洪水や渇水リスクの増加、生態系への悪影響、海面水位の上昇といった様々な影響を及ぼしています。2014年10月、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第40回総会は、地球温暖化を巡る最新の研究成果をまとめた第5次統合報告書を採択しました。その中で、産業革命後の地球の平均気温上昇を2℃未満に抑えるという国際目標を達成するためには、CO2排出量を約2兆9000億トンにとどめる必要があるとしています。しかし、現時点で既に約1兆9000億トンのCO2を排出しており、残された余地は多くありません。2℃目標を達成するためには、温室効果ガス排出量を2050年に2010年比41~72%削減する必要があるとも指摘しています。現状の対策のみでは追いつかず、再生可能エネルギーなどの温室効果ガス排出削減に資するプロジェクトを加速度的に実現していくことが必要不可欠です。IEA(国際エネルギー機関)が2014年6月に出した報告書によると、地球の気温上昇を2℃未満に抑えるためには、2050年までに53兆ドルのクリーンエネルギーへの追加投資が必要だとしています。こうした中、再生可能エネルギーなどの事業やプロジェクトの資金調達において、気候変動対策を目的とする事業活動に資金使途を限定した債券(グリーンボンド)を発行する動きが広がっています。

 2007年に初めて、EIB(欧州投資銀行)がグリーンボンドを発行して以来、その発行総額は年々増加し、2014年6月時点で約400億ドル近くにまで拡大しています。2007年から2011年頃までは、世界銀行やIFC(国際金融公社)、AfDB(アフリカ開発銀行)などの国際金融機関が主な発行主体でしたが、近年では民間金融機関や事業会社も発行主体として参入しています。民間企業の発行は2012年には1件でしたが、2014年には約20件にまで増えており、現在も発行企業は後を絶ちません。2014年5月にはフランスの電力・ガス事業者GDF Suezが、民間企業としてこれまでの最高額となる35億ドルのグリーンボンドを発行しました。民間企業による発行総額は約100億ドルに達しています。日系企業においても、2014年3月にトヨタの米金融小会社が、ハイブリッド車などを割賦販売する際の金融事業やリース債権の購入資金を調達するために17.5億ドルの起債を行いました。
 また、2014年10月には日本政策投資銀行が、環境配慮型ビルディング向け融資を資金使途としたグリーンボンドを発行するなど、日本の企業でも自らが発行主体となる動きが出始めています。

 民間企業によるグリーンボンド市場の急激な拡大は、再生可能エネルギーや省エネルギー事業への投資を活性化し、気候変動対策をさらに促進し得る歓迎すべき動きといえますが、新たな問題も生じています。例えば、何をもって”グリーン”な事業/プロジェクトとするかについては明確な基準がなく、発行者の判断に委ねられています。これまでの国際金融機関が発行するようなグリーンボンドでは、”グリーン”事業/プロジェクトの選定が厳格な方法で行われてきましたが、投資家からは、民間企業によって発行されたグリーンボンドが実際にどれほどの環境負荷削減効果をもたらすのかを懸念する声も出ていました。 こうした声を受け、グリーンボンドを発行するうえで遵守すべき事項を明確化し、投資家に対して適切な情報開示を促すため、2014年1月にはグリーンボンド原則が発行されました。しかし、グリーンボンド原則では「グリーン事業/プロジェクトの選定基準や意思決定プロセスを明示すべき」とされているものの、どのような事業/プロジェクトをグリーンとみなすべきかという判断基準の詳細は示されていません。これまでの発行企業の中には、事業活動そのものの環境負荷の高い企業や原子力発電関連の企業もあり、投資家やNGOの間ではこうした企業が発行するグリーンボンドが本当にグリーンなのか、と批判が噴出するケースもあります。

 グリーンボンド市場はまだ発展途上ですが、こうした批判によって拡大が阻害されないよう、今後、事業/プロジェクトの選定基準の明確化や、グリーン事業/プロジェクトがもたらす環境側面の効果の算定方法などの標準化に向けて早急な整備が求められます。
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