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アジア・マンスリー 2014年11月号

【トピックス】
好調なわが国輸送機器産業の対インドネシア投資

2014年11月04日 塚田雄太


わが国輸送機器産業の対インドネシア直接投資は2011年に急増し、その後も高水準で推移している。今後も自動車産業集積化の動きが強まることで、対インドネシア投資は堅調に推移すると見込まれる。

■対インドネシア投資をけん引する輸送機器
近年、わが国企業の中期的な投資先としてインドネシアの魅力が高まっている。国際協力銀行の『わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告』(以下、海外直接投資アンケート結果)の中期的有望事業展開先国・地域をみると、インドネシアを有望事業展開先とする回答率は2010年度以降急上昇し、2013年度にはこれまで1、2位を独占してきた中国・インドを追い抜いて第1位となった。これと連動するように、日本の対インドネシア直接投資も2011年から急増し、その後も高水準で推移している。業種別にみると、輸送機器が全体の4割以上を占めており、自動車産業がわが国の対インドネシア直接投資をけん引していることがわかる。

これまで、わが国輸送機器産業のASEAN向け直接投資はタイ向けが圧倒的に多く、この結果、同国には東南アジア最大の自動車産業集積が形成された。もっとも、わが国輸送機器産業の2013年のインドネシア向け直接投資額は1,126億円と、タイ(1,485億円)の約75%の水準に達した。以下では、わが国輸送機器産業の対インドネシア直接投資が急増した背景を整理するとともに、先行きを展望する。

■わが国輸送機器産業が対インドネシア直接投資を増加した背景
わが国の輸送機器産業が対インドネシア直接投資を増加した要因として、以下の3点が指摘できる。

第1は、市場規模の大きさと先行きに対する期待の高さである。インドネシアの人口は、2013年末時点で約2億4,880万人と、中国、インド、米国に次いで世界第4位の規模を誇る。さらに、同国の人口は今後も増加基調をたどり、人口ボーナス期も2040年頃まで続くとみられている。この人口を国内需要の拡大に結びつけることができれば、インドネシアは長期間にわたって、安定的な経済成長を維持することができる。そして、安定的な経済成長が続けば、所得の増加を背景とした家計の自動車需要に加え、産業構造の近代化に伴う企業の自動車需要も拡大すると期待される。

第2は、所得水準が、自動車保有台数が急増する水準に達したことである。中所得国以下(一人当たりGNIが12,475ドル以下)に属する国々の一人当たり名目GDPと人口1,000人当たりの自動車保有台数の関係をみると、一人当たり名目GDPが2,000ドルから3,000ドルに拡大する局面では自動車保有台数は12台/1,000人の増加にとどまるものの、3,000ドルから4,000ドルに拡大する局面では27台/1,000人の増加となり、その後も加速度的に増加する。2013年のインドネシアの一人当たりGDPは3,475ドルと、自動車保有台数が急増する水準に達しており、今後、自動車需要が急拡大していくと期待される。

第3は、リーマン・ショックから2012年秋頃にかけて進行した円高とその後のインドネシア政府による低価格・環境配慮型自動車購入促進策である。リーマン・ショック以降、安全通貨として円に対する需要が高まり、円の対ドルレートは2008年から2012年にかけて約3割上昇した。こうした環境が自動車メーカーのインドネシアへの進出を後押しした。加えて、インドネシア政府は2013年5月に、排気量、燃費、部品の現地調達率など一定の条件を満たした低価格・環境配慮型自動車について、購入時にかかる税金の一部を減免する購入促進策を発表した。これが低燃費車種を得意としているわが国自動車メーカーの投資を誘発した。

■先行きは、集積化の動きが投資をけん引
先行きを展望すると、わが国輸送機器の対インドネシア直接投資は堅調に推移すると考えられる。

まず、完成車メーカーの生産基盤の拡張が期待される。IMFによると、インドネシアの一人当たり名目GDPは2019年に4,560ドルに上昇すると見込まれており、販売台数は2013年の約123万台から2019年には約338万台と、今後5年間で3倍近くに増加する可能性がある。このような需要の急拡大に対応するため、完成車メーカーは既存工場の拡張や工場の新規設立などの投資を行うと見込まれる。

さらに、産業集積化の動きである。インドネシアは、現在、自動車部品の多くを輸入に依存している。もっとも、わが国輸送機器産業の対インドネシア直接投資残高が2013年に5,745億円とすでに2006年頃のタイの水準に達していることを踏まえると、インドネシアの自動車産業は、今後、完成車メーカーが進出する局面から、部品メーカーが進出する局面に移行していくと予想される。

しかし、インドネシアが東南アジアにおける新たな自動車産業集積地になるための課題は多い。「海外直接投資アンケート結果」をみると、「インフラが未整備」や「法制度の運用が不透明」、「労働コストの上昇」、「労務問題」などが課題とされている。自動車産業の集積は、インドネシアの所得水準上昇や雇用環境の改善をもたらすだけでなく、同国の経済構造の高度化にも寄与すると考えられる。それだけに、政府はこうした諸課題の解消に積極的に取り組む必要がある。なかでも、インフラや法制度の問題は、外資の導入や手続きの簡素化といった政府の取り組み方次第で改善する余地があり、ジョコ新大統領の手腕が試される改革分野といえる。
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