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アジア・マンスリー 2014年11月号

【トピックス】
タイ・プラユット暫定首相の所信表明演説

2014年11月04日 大泉啓一郎


2014年9月プラユット暫定政権が発足し、民政移管までの約1年間国政を担当することになった。所信表明演説では、近隣国との経済連携強化、相続税・固定資産税の導入による格差是正策などが示された。

■プラユット暫定政権が発足
2014年の軍のクーデター以降、タイの政治は国家平和秩序維持評議会(NCPO)によって掌握されてきた。それ以降、NCPOが示したスケジュールに沿って民政移管が進められている。7月に暫定憲法が公布され、これに基づいて国家立法会議(国会を担当する)が設立された。9月には、NCPOの議長であるプラユット陸軍総司令官を暫定首相とする暫定政権が発足した。総選挙を経た新政権が発足するまで約1年間の政治を担当する。

暫定政権の顔ぶれをみると3分の1が現役・退役軍人となっているものの、大半の国民はこれを受け入れているようである。これにはNCPOがクーデター直後から景気回復のための政策を矢継ぎ早に実施してきたことなどが影響していると考えられる。クーデターから3日後の5月25日には2015年予算案(2014年10月~2015年9月)を承認し、6月18日には政局不安で滞ってきたBOI(タイ投資委員会)の手続きを再開させるなど、景気減速の障害を迅速に取り除いてきた。プラユット陸軍総司令官が暫定首相となるものの経済政策についてはプリディヤトン副首相(元タイ中央銀行総裁)が実質的な指揮を取る。これまで政局不安によって多くのプロジェクトが先送りされ、景気を抑制してきたことを考えると、暫定政権の発足は経済にとってプラス要因とする見方が強い。消費者信頼感指数は、軍のクーデター以降は一転して改善傾向にある。

■所信表明演説で基盤改革を明言
9月12日、プラユット暫定首相は、国家立法会議において所信表明演説を行った。演説の冒頭では、最重要課題が治安維持と国民和解であることを強調し、国王の開発哲学「充足経済(セータギット・ポーピアン)」や第11次国家経済社会開発計画に加え、国民の声を反映した11項目に取り組む方針を示した(次頁右上表)。それぞれの具体的な政策については、10月に発足した国家改革会議で議論される。また、プラユット暫定首相は、2015年の総選挙まで1年間という短期間の政権であるものの、国家の基盤整備に着手することを強調した。

所信表明演説で目についたのは、2015年末に発足予定であるASEAN経済共同体を見据えて、タイの競争力強化を目的とする近隣諸国との連携強化について、繰り返して述べられたことである。具体的な政策として、国境地域の経済特区の整備、近隣諸国からの移民労働者の承認、近隣諸国と結ぶ総額2兆4,000億バーツの運輸プロジェクトの実施などについて言及した。また、これまでASEAN地域におけるタイのハブ化計画の実質的立案者であったNESDB(国家経済社会開発庁)のアーコム前長官が運輸副大臣に就任したことは、近隣諸国との連携強化をいち早く実現したいという暫定政権の意思の表れと捉えることができる。

■相続税・固定資産税の導入
暫定政権は、国民和解を図るために、所得格差是正にも注力する。タイの所得格差をジニ係数でみると全国レベルでも地域レベルでも常に0.4を超えており、縮小の兆しはみられない。むしろバンコクにおいては悪化傾向を示している。

タクシン政権以降、いずれの政権も支持確保のために低所得者への補助金的政策を拡充してきた。とくにインラック前政権の籾担保融資(実質的コメの高価買取制度)は、7,000億バーツもの負債を生じるなどバラマキ的政策が強かった。

プラユット暫定首相は、NCPO議長の時点からバラマキ政策を批判してきたため、所信表明演説では、どのような格差是正策が提示されるか注目を集めた。まず、年間8万バーツ(約28万円)未満の低所得者を対象に所得の最大20%を給付する。これは所得に応じた給付であり、無所得者への給付ではないことから、労働促進を通じた所得拡大策と位置付け、バラマキとは一線を画した。また、経済面だけでなく、医療保険や教育制度の充実により格差是正を目指すなど、制度面での格差是正を強調した。

 さらに、格差是正策として、相続税と固定資産税の導入に言及したことは注目を集めた。相続税や固定資産税の導入については、これまでも検討されてきたが、富裕層議員が多い国会で否決され、実現には至らなかった。相続税については「住宅、土地、車、有価証券など5,000万バーツ以上を対象に10%の課税」、固定資産税については「遊休地に上限2%、商業地には同1%、住宅や農地には0.5%で課税」として検討中である。

NESDBの調査によれば、商業銀行預金において1,000万バーツ(約3,500万円)を超える口座は約10万件に及び、土地所有権では上位20%が総面積の80%を所有していることが明らかになっている。こういう状況を踏まえ、所得格差だけでなく、資産格差にも踏み込んだ点は高く評価できよう。税率の水準は低いものの、両税が導入されれば、タイは歴史上の新しい一歩を踏み出すことになる。プラユット暫定政権は、同法案を年内にまとめたいとしているが、富裕層に属す人も決して少なくない国家立法会議でどのような議論がなされるかが注目される。
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