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日本版スチュワードシップコード、成功の鍵はアセットオーナーが握る

2014年07月01日 林寿和


 6月10日、金融庁は日本版スチュワードシップコードの受け入れを表明した機関投資家のリストを公表した。同コードは、企業との対話を通じて持続的な経営を促すために、機関投資家に取り組みを求めるものである。今回、同コードの策定から、わずか3カ月で127の機関投資家が受け入れを表明したことが明らかとなった。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)など大手公的年金も受け入れを表明している。

 しかし、年金基金をはじめとするアセットオーナーが公表した同コードへの対応方針を見ると、「運用受託機関に対して、スチュワード責任を果たすよう適切な取り組みを求める」といった内容が多く、資産保有者の立場からどのような取り組みを運用受託機関に求めているのか、必ずしも具体的に提示されていない。
 アセットオーナーによる取り組みが重要である理由の一つは、同コードが「Principle-Based Approach(原則主義)」と「Comply or Explain(実施するか、実施しない場合にはその理由を説明するか)」と呼ばれる仕組みを採用している点にある。こうした仕組みは、個々の実態に即した創意工夫を引き出すことを狙ったものであるが、正しく機能するためには、取り組みの内容は、あるいは取り組まない場合の理由説明が、しっかりと外部からモニタリングされ、評価されることが不可欠である。アセットオーナーが運用受託機関に対して、投資運用において考慮すべきことを具体的に提示し、個々の運用受託機関に取り組みを促すことがなければ、運用受託機関側が同コードに前向きに取り組むことの経済合理性が薄れてしまう。仮に取り組まない場合の説明責任も、さほど求められないのであればなおさらである。

 アセットオーナーが、投資先の企業経営に関して具体的な考え方を示すことについて、「多様な受益者の代理人である年金基金が、特定の価値観や考え方に依って立つのは適切ではない」という指摘もあるが、個別の論点について問われた場合、例えば、投資先企業が労働環境や労働安全にも配慮した企業経営を行うことの必要性や、あるいは気候変動により今後想定される悪影響も考慮した企業経営を行うことの必要性について問われた場合、必ずしも意見が二分するとは限らないだろう。日本のモデルとなった英国では、スチュワードシップコードの策定をうけて、投資運用において考慮すべきことを具体的に提示しているアセットオーナーは少なくない。

 日本版スチュワードシップコードは、策定からまだ3カ月程度しか経過しておらず、現時点では受け入れについて検討中というところも多いと考えられる。今後、同コードの趣旨に賛同して取り組みを前進させるアセットオーナーが現れることを期待すると同時に、我々自身も、加入している企業年金や、あるいは国民年金が同コードにどのように対応しているのか、対応しようとしているのかを一度確認してみるところから、受益者の一人として考えていくことが重要だと考える。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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