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【ASEANにおけるPPPの現状と展望 2 インドネシア】
民間資金を活用したインフラ整備を可能とするための官民一体となった実行プログラムの実現を

2014年07月02日 高野寛之


1.海外投資に沸くインドネシア

 約2億4,000万人と世界第4位の人口を有するインドネシアは近年、政治が比較的安定化してきており、毎年5%前後の堅調な経済成長率を達成している。消費を牽引する富裕層・中間層の人口の急速な増加も見込まれることから、ビジネスチャンスを求めて、日系をはじめ海外企業の進出や投資が活発な状況だ。
 インドネシアの投資調整庁(BKPM)が2014年1月に公表した投資統計によると、2013年の外国からの直接投資額は過去最高を更新し286億1,754万ドルとなった。中でも日本企業の投資意欲は強まっており、直接投資額は国別で全体の16.5%を占め、シンガポールを抜いて7年ぶりに首位に立った。

2.今後の経済発展には大規模なインフラ整備が必須

 一方で、経済活動の足元を支える、電力、道路、港湾などのインフラ整備が、急速な人口増加や経済成長に追い付いていない。特にジャカルタ首都圏では居住地の開発が許容量を超え、慢性的な交通渋滞、劣悪な居住環境、洪水、環境汚染等様々な都市問題が発生している。
 2011年にユドヨノ政権が発表した大規模なインフラ開発計画のマスタープラン「経済開発加速化・拡充マスタープラン(MP3EI)」は、これらの問題を解決し、経済開発の一層の拡大を図るためのものだ。2015年までを計画期間とする同プランでは、列島を走る6つの回廊、スマトラ、ジャワ、カリマンタン、スラウェシ、バリ-ヌサ・トゥンガラ、パプア-マルクに沿って、ICT、石油・ガス、鉄鋼、交通車両など22の主要な経済活動を発展させようとしている。なかでもスマトラおよびジャワ経済回廊には開発の重点が置かれ、特に両回廊の結節点に位置する首都ジャカルタは最重点地域に位置付けられている。

                     図表 1 MP3EIの回廊図

                                                      出典:MP3EIを元に作成
                                                  
                 図表2 MP3EIにおける各回廊の経済開発の戦略的位置づけ

                                                           出典:MP3EI

 わが国もジャカルタ地域のインフラ整備に向け、積極的に関与している。例えば、JICAが計画策定段階から関与するジャカルタ首都圏投資促進特別地域(MPA)マスタープランは、2011年5月から調査を開始、2012年10月の日・インドネシア両政府閣僚による運営委員会にてプランが承認された。このMPAマスタープランでは、ジャカルタ周辺にサブセンターを配することで、ジャカルタの中心市街地一極集中構造から多極分散型構造へ移行し、渋滞緩和や防災耐性向上を図ることなどを目標とした2030年時点におけるジャカルタ首都圏の都市ビジョンが規定された。
 また、同プランでは、都市ビジョンのほかに2020年までにジャカルタ首都圏が達成すべきインフラ整備の全体計画策定と45の優先的なインフラ事業の特定、そのうち、早期に実施すべき20の早期実施事業の促進が記載された。日系企業は、JICAの支援により計画段階から関与していたことにより、個別プロジェクトへの参画の可能性が高められることが期待される。

                 図表3 早期実施事業リストと進捗状況

     出所:「ジャカルタ首都圏 投資促進特別地域(MPA)第4回運営委員会(2013年12月)資料を元に作成                                             

3.インフラ開発はODAからPPPへ

 従来、インドネシアのインフラ整備は、ODAを活用して実施されるケースが多かった。日本のODAの最大の受け取り国でもあり、近年は円借款等を通じ、様々なインフラを整備してきている。
 しかし、今後も増大するインフラ整備を他国政府からの借款を原資に実施することは、財政破たんを招きかねないため、インドネシア政府はインフラ整備におけるODAへの過度の依存から脱却を志向し始めている。
 こうした姿勢の転換はプロジェクト進捗にも影響を及ぼしている。MPAマスタープランにおいて、2013年度末までの着工が目標とされた20の早期実施事業のうち「フラッグシッププロジェクト」が5つ指定されているものの、図表3のようにジャカルタ都市高速鉄道プロジェクト以外は軒並み着工が遅れている。日本の有償資金協力で実施される案件は、結果としてインドネシア政府に巨額の債務が計上されることから、政府が慎重な姿勢を崩していないのだ。
 結局、インフラ増強は必要だが債務増には耐えられないインドネシア政府は、民間資金を活用するPPPに活路を見いだそうとしている。例えば、MP3EIの実行のために見積もられた投資額は約4,120億ドルであるが、インドネシア政府はこの多くを民間投資から調達する計画だ。
 このため、PPPに関連する制度整備を急ピッチで進めている。まず、PPPの根拠法として、インフラ投資に民間資金を活用するための法的な根拠となる大統領令が2005年に施行され、2011年までに内容の補強が行われてきた。そして、PPP事業者のリスク軽減に向けた保証、補助、投融資等について、財務大臣令、政府令が発令された。また、事業性が高くない案件に対して、初期投資の一部を国が補助するギャップファンディングの仕組みが2012年に制度化された。さらに、PPPに限定されず、インドネシアのインフラ整備に際しては、かねてより土地収用が困難な点が課題となっていたが、2012年2月に新土地収用法、2012年12月に実施細則が整備されるなど、インフラ関連プロジェクト実施支援制度が整備されはじめている。

                   図表4 PPP関連制度等の主な整備動向等

                                                出典:各種資料より日本総研作成 

 一方、法制度整備後に実際に各種制度の運用が進められるかは今後の課題だ。ギャップファンディングに関する政府の補助金の予算の確保、水分野のPPP事業のオフテーカー(需要リスクを負担する主体)としての機能が期待される地方政府の水購入の履行能力など、公的機関側の対応能力に未知数の部分が多いのが現状だからだ。
 また、PPPに関する制度は近年になって急速に整備・変更されてきたため、政策立案機関や政府契約機関、支援制度を担当する財務省の内部体制が十分に整っていないことも問題だ。制度の内容等の共有も進んでおらず、結果、担当者の運用で乗り切るしかない状況になっている。

4.PPP移行初期段階のインドネシアに対するわが国の取るべき戦略

 ODAを活用したインフラ整備から、民間事業者が資金調達、施設整備・運営に強く関与するPP型インフラ整備へと舵を切り始めたインドネシアであるが、実務面における課題は多い。一方、わが国は、国内でのPPP/PFIの案件実績が豊富にあり、官民の役割分担やビジネススキームの成熟化も進んできている。今後は、こうした実績を海外のPPPビジネスで活用する時期に来ていると言える。一方、進出先としてのインドネシアはこれまで、ODAを通じ強固な経済関係を築いてきた。今こそこの実績を土台に、日本のODAもPPP実行支援型に移行し、インドネシアのPPP促進に向けた実務面での運用支援をするとともに、日本企業のビジネスチャンスを広げていけるよう、官民連携によるバックアップが必要なのではないだろうか。以下に、PPPへの移行に向けたわが国の戦略を提案する。

(1)官民連携によるPPP実施体制の改善に向けた積極的な支援を
 わが国は、今後は、PPPの実施促進の観点に立った支援に注力する。なお、体制整備は、インドネシア政府だけでなく、ジャカルタ首都圏を中心とした地方政府においても喫緊の課題となっており、多様な主体に対してPPP制度の運用支援を行う体制の構築が必要となる。
 わが国ではPPP、特に1999年のPFI法施行後のPPP普及黎明期において、各種専門家派遣制度等が活用された。また、行政のアドバイザリー機能を果たす民間事業者も多数成長した結果、一部の行政機関においてはPPPのメリットに対する認識が向上しただけでなく、実行段階のノウハウの内部化が進むなど、行政機関の体制強化につながった。このようなわが国のPPP推進にかかる官民の体制構築・ノウハウ向上の経緯を踏まえると、インドネシアに対し、PPPの事業性検討だけでなく、その後の民間資金の活用・導入支援を行うために専門家を派遣することは、PPPを普及させる意味で効果的であると考えられる。具体的には、インドネシア政府内のアドバイザリーチーム組成をJICA等のプログラムを通じて支援し、各案件のアドバイザリーを行える体制を整備する。これに担当者レベルの知識を底上げする研修制度を加えることで、インドネシア政府におけるPPP推進体制の確立を図っていく。

(2)運用面の改善に向けたODA資金の活用可能性の検討を
 制度整備が進むが、各種支援の実施に際し、特に財政的裏付けに不安の残るインドネシア政府の状況を踏まえると、日本国政府としては、日系企業のインフラ整備への参画を視野に入れ、PPP関連制度を資金面でバックアップすることが考えられる。例えば、想定されるインフラ投資について、インドネシア政府によるギャップファンディング予算が確保できず、PPPでは取り組むことができない低採算のインフラ投資については、わが国がODA資金を活用することにより、インドネシア政府の政策実行を後方から支援するといったように、インドネシアのPPP制度の確実性向上のための対策が必要である。
 現在、政府では、ODAをインドネシア政府の制度実行のためのギャップファンディング等の資金として活用する方法に加え、保証についてのバックファイナンスとして活用する方法などが検討されている。今後は、これらの手法も含め、PPP制度の実効力担保のために必要な支援を政府として行うことにより、インフラ投資の実現性向上を図っていくことが求められる。

(3)インフラ整備とセットになるパッケージ型都市開発の提案を
 大統領令56/2011やPPPに関するガイドラインである国家開発企画庁規則2012年第3号では、民間提案(Unsolicited proposal)の取り扱い基準が明確化され、インフラ整備に関する民間事業者の提案余地が拡大された。これはインドネシア政府としてPPP型の開発提案を期待する姿勢の現れである。
 わが国の企業は、これまでの「国家・自治体の計画策定段階からの関与により受注を有利にする」戦略の見直しを迫られることとなるが、一方でビジネスチャンスの拡大にもなり得る。鉄道を例に挙げると、路線や駅舎の整備とともに、駅前開発を行うパッケージ型開発は、わが国の企業の得意分野と言える。現在行われているジャカルタ都市高速鉄道(MRT)の開発においても、あわせて整備するターミナル駅周辺の開発などが重要視されており、民間提案の柱として位置付けられるのではないだろうか。今後は、日本企業のノウハウを発揮できる民間提案対応型のビジネスモデルの構築も並行して進め、都市開発におけるPPP事業化、採算性の改善を進めていくことが求められる。

                                                    

※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。



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