オピニオン
公共調達で女性の就労促進を
2014年05月20日 小崎亜依子
女性の活躍支援は、安部内閣の成長戦略の柱の1つとなっている。足下では、女性活躍支援促進に向けて様々な施策が検討されており、国等の公共調達で女性活躍企業を有利に評価することなどが検討事項に挙がっている。
公共調達を活用した女性活躍支援は、地方自治体が先行している。例えば、男女共同参画等の項目を調達時に考慮している都道府県は、公共工事で32、物品の購入で12に上る。男女共同参画等の項目とは、次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を策定し、労働局に届出している場合や、独自の男女共同参画やワーク・ライフ・バランスの企業認証制度に基づく認証、 登録を受けている場合などを有利に評価しようというものだ。いずれも、発注先である組織の取り組みを考慮する手法である。
こうした手法は、既に女性の活躍に積極的に取り組む組織へのインセンティブを付与するという点では、有効であろう。しかしながら、日本の女性活躍支援における最大の課題であるM字カーブ(※1)の解消に対しては、直接的な解決策となり得るわけではない。当該調達が、長期間働いていなかった女性・育児中の女性の新規雇用を創出するわけではないからである。
足下で検討されている国等の公共調達の活用では、発注先組織の取り組みだけでなく、女性の雇用創出を調達要件の1つとするような手法を提案したい。
特定層の雇用を公共調達の要件とする手法は、既に諸外国に存在する。女性の雇用創出分野ではないものの、イギリスのある自治体では、地元の学校に牛乳を提供するサプライヤーの選定の際に、長年無職だった人の雇用を積極的に行うことのできるサプライヤーを選定している。また、河川の管理事業者の選定においては、犯罪に加担したことのある若年層の雇用および教育機会を 提供できる事業者をサプライヤーとして選定した事例もある。こうした手法は、牛乳の提供や河川の管理といった目的だけでなく、特定層の雇用・教育機会の提供をも実現することが可能であることから、政策的な効果は大きいといえる。
日本の公共調達において、長期間働いていなかった女性・育児中の女性に雇用機会の提供、教育機会の提供の実施を調達要件とすれば、M字カーブ解消に貢献する可能性があるだろう。わが国の政府最終消費支出は、国民総生産の約2割を占めており、その調達時に考慮される項目の持つ影響は大きい。女性の活躍を支援している企業へのインセンティブ付与としてだけでなく、新た な雇用機会や教育機会の提供の手段として、公共調達を活用してはどうだろうか。
※1 日本女性の労働力率は,結婚・出産期に当たる年代に一旦低下し,育児が落ち着いた時期に再び上昇する。そのため、年代別の労働力率はM字のような形になることから、こうした現象をM字カーブと呼ぶ。M字カーブの底は、大都市およびその周辺ほど深い。
※メッセージは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。