オピニオン
企業によるインパクト・インベストメントの動き
2013年10月01日 菅野文美
「インパクト・インベストメント」が、収益を上げるだけでなく、社会問題や環境問題の解決にも貢献する事業への新たな投資として、注目を集めている。その市場規模は明らかになっていないが、JPモルガンは、2020年までに全世界で約1兆ドルの資産規模に成長すると推定している。インパクト・インベストメントの投資先の多くは、新興国の低所得(BOP)市場で、食品と農業、ヘルスケアなど、基本的な生活基盤を支える商品・サービスを提供する、社会的企業や営利のベンチャー企業である。投資家は、これまで超富裕層の篤志家が中心であったが、実績が累積されていくのに伴い、大手金融機関などの機関投資家に広がり、最近では、欧米を中心に、多国籍企業も出現している。
フランスのエネルギー大手のシュナイダー・エレクトロニクス(以下シュナイダー)は、2009年に、アフリカやインドを中心とするBOP層向けエネルギー事業に投資をする、インパクト・インベストメント・ファンドを設立した。シュナイダーは、都市の郊外、地方の町、農村に住むBOP層が必要とするエネルギー事業をマッピングし、それぞれの事業分野で革新的なソリューションを持つ企業に投資をしている。投資先の一つに、セネガルの農村で住宅用太陽光発電事業を営むKAYERがある。シュナイダーは、KAYERに対して、資金だけでなく、経営や技術指導を提供することで、その成長を促す。
シュナイダーがインパクト・インベストメントを行う狙いは何か。まずは、戦略的CSRの実践として、従来のように毎回寄付金を使い切るのではなく、資金を使い回しながら効果的かつ効率的に社会や環境に貢献するという狙いがある。一方で、事業目的もあると考えられる。すなわち、シュナイダーにとって、インパクト・インベストメントは、BOP市場に参入するための先行投資となる。投資先を通じて、BOP市場で成功する商品・サービスやビジネスモデルについて情報を収集し、現地政府や将来の事業提携者とのネットワークを獲得することができる。更に、投資先を通じて、商品・サービスやビジネスモデルのイノベーションを創出する狙いもあると考えられる。自社では、現地情報や人脈を持たないこと、高いリスクが取れないこと、などの理由により、BOP層向けの革新的なビジネスモデルを創出することは難しいからだ。
現状では、多くの日本企業はインパクト・インベストメントに注目していない。そうした中、今年4月にベネッセ・ホールディングスが立ち上げた「ソーシャル・インベストメント・ファシリティ」は先進的な取り組みとして注目される。アジアを中心とする地域で教育分野などの革新的な事業への投資を目的としたファンドだ。こうした動きを契機として、今後日本でも、BOP市場への進出や、イノベーションの創出を目指す企業に、インパクト・インベストメントが広がっていくことを期待したい。
※メッセージは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。