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【「CSV」で企業を視る】(17)介護用ロボット市場への挑戦

2014年03月01日 ESGリサーチセンター 林寿和


 本シリーズ18回目となる今回は、共有価値創造の手法の1つである「顧客ニーズ、製品、市場を見直す」事例として、介護用ロボット市場に挑戦する安川電機を取り上げる。介護用ロボット市場は、我が国で今後さらに深刻化するであろう高齢化に伴って、その市場の拡大が予想されており、政府も積極的に産業育成に乗り出している。本稿では、介護用ロボット産業の育成を巡る国の政策動向を概説するとともに、同社の取り組みを紹介する。

(1)介護用ロボット産業の育成に向けた国の取り組み
 内閣府が発表した最新の「高齢社会白書」によると、2012年10月時点の65歳以上の高齢者人口は、過去最高の3,079万人に達し、総人口に占める割合(高齢化率)が24.1%に達している。今後もさらに高齢化の加速が見込まれており、2025年には75歳以上の人口が全人口の18%を占めるまでになると予想されている。それに伴う要介護者の急激な増加も目前に迫っている。他方、介護の現場では人材不足が叫ばれており、厚生労働省は、介護に必要な職員の数が今より約1.6倍必要になるとみている。
 こうしたわが国が抱える喫緊の社会的課題に対処するために、要介護者の歩行等の移動や排泄を支援する器具・装置、さらには、介助者の肉体的な負担を軽減するためのパワーアシスト装具など、介護用ロボットに対する社会的なニーズが高まっている。
 2013年6月に安倍政権が閣議決定した「日本再興戦略」でも対策の強化が盛り込まれている。具体策として「ロボット介護機器開発5 カ年計画の実施」を掲げ、介護現場の具体的なニーズに応える安価で実用性の高いロボット介護機器の開発を進めることが打ち出されている。経済産業省と厚生労働省は、「移動介助」「移動支援」「排泄支援」「認知症の方の見守り」「入浴支援」の5分野を重点分野に指定し、支援を加速させている。さらに2014年2月には、国際標準化機構(ISO)が定める生活支援ロボットの安全性に関する国際標準化規格(ISO13482)に日本が提案する規格が採用されたことが伝えられている。安全性に関する統一的な基準が定められたことで、介護用ロボットの開発・普及への弾みになることが期待されている。

(2)相次ぐ介護用ロボット市場への参入と安川電機の取り組み
 介護用ロボットの開発を巡っては、既に大手自動車メーカーや電気機器メーカー等の上場企業が相次いで参入している。そうした中、介護用ロボット市場への参入を経営計画に明確に据えて、その開発を進めている企業の代表例として安川電機が挙げられる。同社はこれまでアーク溶接用ロボットなどの産業用ロボットで強みを発揮してきた企業である。同社が、ロボット技術を生かし、より人に近い分野で人と共存するロボット市場の創出を対外的に打ち出したのは2009年に遡る。当時発表された中期経営計画「Challenge 100」において、先進国の少子高齢化問題や労働需給のミスマッチに対応するため、ロボット技術を生かしたリハビリ機器や介護支援機器の事業化を盛り込んでいた。以来、毎年アニュアルレポートなどでもその後の経緯が報告されている。さらに、「Challenge 100」を引き継ぐ形で2012年に策定された中期経営計画「Realize 100」においてもこの方針が踏襲されており、同社では開発を加速されている。足元では、介助者の抱え上げ動作をパワーアシストする移乗アシスト装置の開発が、経済産業省による補助事業に採択されたほか、2014年2月には、下肢用リハビリ装置を製品化したことを発表。日本市場に加えて、急速に高齢化が進む中国市場への製品投入を行うことを表明している。さらに、足首アシスト歩行装置、上肢用リハビリ装置についても相次いで開発を発表しており、2015年からの商品化を目指している。
 前述したように、介護用ロボット市場への参入を狙っている企業は安川電機だけではない。しかし、2009年以来一貫して経営計画においてその方針を明確化し開発を進めている安川電機は、上場企業の中でも特に目を引く存在といえる。今後、競争の激化が予想されるが、社会的課題の解決を通じた企業の成長へのコミットメントが明確に表明されている点は期待材料であり、今後の技術開発や製品化の動向が注目される。

*この原稿は2014年2月に金融情報ベンダーのQUICKに配信したものです。

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