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CSRを巡る動き:企業と投資家双方に求められる中長期的視点

2014年02月01日 ESGリサーチセンター


 企業における情報開示の新たな枠組みである「統合報告」のフレームワーク第一版が昨年12月に公表されました。4月にフレームワークのコンサルテーション草案が発行され、3ヶ月間のパブリックコメント期間を経て、600を超える個人や団体からコメントの提出がありました。それらの意見を踏まえて修正や追記を行い、第一版が策定されています。

 パブリックコメントでは、草案の中の特定の箇所について具体的な質問を投げかけ、意見を求める形式がとられていましたが、そのうち「重要性と簡潔性」に関しては以下のような質問が掲げられていました。「『重要性は、報告書の主たる想定利用者からの評価を参照することによって決定される。報告書の主たる想定利用者は財務資本の提供者である。』このような重要性に関するアプローチに同意しますか。」この質問に対してコメント提出者の約8割が回答し、約55%が賛成意見を示しました。他方、3分の1以上の回答者からは、財務資本の提供者に焦点を当てることを懸念する意見が提出されました。こうした反応を前提に、第一版では「報告書の主たる想定利用者は財務資本の提供者である」という言い方を、「統合報告の主たる目的は、長期にわたり組織がどのように価値創造するのかを財務資本の提供者に説明することである」と修正したものの、修正後も「財務資本の提供者」に説明するためのものであるという基本スタンスは保持されました。

 なぜ「統合報告」は「財務資本の提供者」にこだわるのでしょうか。それは、企業が財務資本以外の資本(例えば、自然資源やステークホルダーとの信頼関係)をどのように利用し、相互に影響を及ぼしながら事業活動を行うかによって、企業の将来価値や業績を大きく左右することがあるとの考えが大前提におかれているからです。「財務資本の提供者」とは主に投資家を指しますが、中長期的な視点で企業価値を適正に評価しようとした場合、財務情報だけでは難しくなったという変化に対応しようとするものです。統合報告では、財務情報以外の情報として具体的には、組織概要と外部環境、ガバナンス、ビジネスモデル、リスクと機会、戦略と資源配分、実績、見通しなどについて、投資家に向けて説明することを企業に求めているのです。ここには「環境」や「社会」という例示はなされていません。すなわち、単に財務情報とCSR情報を合わせただけの報告ではなく、長期的な価値創造能力に重大な影響を及ぼす情報に的を絞り、企業固有の価値創造ストーリーとして開示することが重要視されているのです。

 こうした新たな情報開示への要求に対して、企業側からは「日本の投資家が統合報告を本当に必要としているのか分からない」という懸念の声もときに聞かれます。企業の中長期的なビジョンや戦略に関する質問を受けることは滅多にないというのです。確かに近年、日本では非財務情報を重視した投資判断を行う投資家の割合は限定的になってしまいました。

 ただ、ここにも変化の兆しが出てきています。こうした日本の投資家の短期志向を是正し、中長期的な投資行動を促すため、昨年12月26日に「日本版スチュワードシップ・コード」の草案が公表されました。スチュワードシップ・コードとは、2010年に英国で機関投資家に向けて策定された行動原則のことです。日本でも英国のスチュワードシップ・コードに倣い、「企業の持続的な成長を促す観点から、幅広い機関投資家が企業との建設的な対話を行い、適切に受託者責任を果たすための原則」として定められました。機関投資家に対して、投資先企業の持続的成長に向けて当該企業の状況を適切に把握することや、これを踏まえて当該企業と建設的な「目的を持った対話」を行うことなどを要請しています。

 統合報告によって企業が中長期視点に基づき情報開示することが求められている一方で、投資家も短期的な視点のみに偏ることなく、企業の中長期的な企業価値向上や持続的な成長を促すという対応が迫られています。これまでとは違った方向の風が資本市場には吹き始めているように見えます。
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