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CSRを巡る動き:ショート・ターミズム問題とその克服に向けた取り組み

2014年01月06日 ESGリサーチセンター


 ―ショート・ターミズム(短期主義)問題を克服し、企業の長期的な成長を支える株式市場を実現する―。株式投資の在り方や株式市場が果たすべき役割を巡って、こうした議論が世界的に高まっています。議論が高まる一つのきっかけとなったのは、英国政府の要請によりロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授のジョン・ケイ氏が取りまとめた報告書「ケイ・レビュー[1]」です。報告書では、株式市場が極端に短期的な利益を経営者に求めるために、被投資側の企業の長期的な成長が阻害されていると指摘しています。11月にパリで開催された責任投資原則(PRI)主催の国際会議でもこの問題が大きく取り上げられ、学術界を巻き込んで活発な議論が行われました。このショート・ターミズムの問題は我が国も決して無関係ではありません。12月に発表された最新の実証研究は、英国市場と同様に、日本の株式市場もショート・ターミズムに陥っている可能性を指摘しています[2]。

 ショート・ターミズムを克服するにはどうすればよいのでしょうか。既に議論の中心は、その問題提起から解決策へと軸足を移しています。今最も活発に議論されていることの一つに、企業に義務付けられている四半期毎の財務報告の是非を巡る議論があります。四半期毎の業績に過度な注目が集まる結果、長期的な視点からの企業評価や投資判断が疎かになっているという主張です。株式の保有期間の長短によって、投資家を区別してしまおうとする方策も提案されています。それはロイヤルティ株式と呼ばれ、長期間株式を保有している投資家だけに追加的な議決権や配当金を付与する仕組みを持つ株式の総称です。投資家が投資先を選定する際に、長期間の保有をより意識させることによって、長期的な視座に立った判断を促すことができると言われています[3]。実は、日本企業においても、ビックカメラや日本航空のように、長期間保有する株主を優遇した株主優待を提供する企業が増えています。これは主に個人投資家をターゲットとしたものですが、一つの取り組み例と言えるでしょう。

 しかし、四半期報告義務の廃止などの制度改正や、長期株式保有に対するインセンティブ付けだけを行っても、企業の長期的な成長を促す株式市場の実現という本来目的の達成には至らない可能性があります。投資家が長期的な視点から企業の成長性を評価するためには、企業はどのような情報開示を今後充実させ、投資家はそれをどのように活用していくべきか、という議論を一層深めていく必要があるからです。長期的な企業の見通しを判断するためのESG(環境・社会・ガバナンス)や非財務情報と呼ばれる情報開示の在り方や、その活用方法のベスト・プラクティスを蓄積し共有していくことも重要です。企業の中長期的な見通しや戦略を示す中期経営計画の立て方や投資家への説明の仕方も、今後さらに重要なテーマの一つとなるでしょう。

 企業サイドでは、欧州企業を中心に意識が着実に変化し始めている点も見逃すことができません。例えば、ネスレ社は、過度に短期的な思考に陥ってしまう可能性があるとして、四半期報告義務を課す証券市場への上場は行わないと明言しています。ドイツのBASF社やSAP社のように、長期的な目線を持つ投資家を呼び込むために、ESG投資家向けのIR担当者を設け、ESG投資家向け説明会を積極的に開催する海外の企業も増えてきました。一方、我が国は、企業のESG情報開示が世界的に進んでいる国の一つとされますが、長期投資家を明確に意識した情報開示やIR活動を展開する企業は極めて少ないのが実情です。昨今の株価上昇に伴い日本市場に対する内外投資家の注目は高まっています。こうした機会を捉え、長期的な視点を切り口とした投資家とのコミュニケーション活動に積極的に乗り出す企業が日本からも多く現れることは、ショート・ターミズム問題克服への貢献の観点からも重要と言えるでしょう。

[1] Kay, J. (2012) “The Kay Review of UK Equity Markets and Long-Term Decision Making: Final Report,” July 2012.
[2] 林寿和、小崎亜依子 (2013) 「日本の株式市場におけるショート・ターミズム(短期主義)の実証分析」、証券アナリストジャーナル51(12) pp.106-117.
[3] Bolton, P. and F. Samama (2012) “L-Shares: Rewarding Long-Term Investors,” ECGI - Finance Working Paper No. 342/2013.
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