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アジア・マンスリー 2013年12月号

【2014年アジア経済の見通し】
前年を上回る成長率となる2014年のアジア

2013年12月03日 向山英彦


2014年は内外需の持ち直しにより、多くの国・地域で13年をやや上回る成長になるものと予想される。中国は13年と同じ7.7%、インドは13年度を上回るものの、4.9%にとどまるであろう。

1.2013年のアジア経済
全体として景気が持ち直しているが、輸出回復の遅れや一次産品価格の下落、景気対策効果の剥落などにより回復ペースが一部で鈍化している。中国では7%台半ばの成長が続いている。
(1)内需の勢いの差が表れた近年の各国成長率
 アジア経済はリーマンショック後の景気の落ち込みから急回復した後、総じて安定成長を続けてきたが、2011年後半以降世界経済の減速に伴い景気が減速した。輸出依存度の高いNIEsでは、実質GDP 成長率(以下「成長率」)がシンガポールで2011年の+5.2%から12年に+1.3%、韓国で+3.7%から+2.0%、台湾で+4.1%から+1.3%へ低下した。輸出の伸びが低下するとともに、設備投資が落ち込んだことによる。
台湾と韓国では対中輸出依存度が高い(台湾の対中国・香港輸出依存度は約40%、韓国の対中輸出依存度は約26%)ため、中国経済の影響を受けやすい。中国の成長減速により、韓国や台湾では対中輸出にブレーキがかかっただけではなく、資源需要の減少に伴う一連の動き(一次産品価格の大幅下落と資源開発プロジェクト中断などによる新興国の成長減速、海運・造船不況など)の影響も受けた。
また中国ではリーマンショック後に景気対策の一環として、大規模な公共投資が実施された。鉄鋼、石油化学など素材産業では積極的な増産(生産能力の拡張を含む)が図られたが、その後の需要鈍化によって過剰な生産能力を抱えることになった。在庫が増加した結果、安価な中国製品がアジア市場に溢れ、これがアジア市況を悪化させ、韓国や台湾メーカーの収益を下押ししている。
ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国でも輸出が落ち込んだが、それを内需がカバーすることにより、12年はインドネシアで+6.2%、マレーシアで+5.6%、フィリピンで+6.8%と比較的高い成長率となった。洪水の影響によってタイの成長率は11年に+0.1%へ低下したが、復興需要と政府の景気対策などに支えられて12年は+6.5%へ回復した。
民間消費をみると、インドネシアやマレーシアなどで消費が安定的に伸びている。その要因には、①所得の増加、②インフレ抑制、③低金利の継続などがある。所得の増加には賃金以外に、一次産品価格上昇の効果がある。近年まで中国を含む新興国で高成長が続いたことにより一次産品価格が高騰し(3頁右上図)、これが農村部の所得を増加させた。現在、天然ゴムの生産上位国はインドネシア、タイ、マレーシアで、パームオイルに関してはインドネシアとマレーシアで世界全体の8割以上を占める。都市部を中心にした「中間層」の増加に、農村部の購買力上昇が加わったため、自動車や携帯電話などを購入できる層が広がった。巨大ショッピングモールの出現も消費拡大を後押ししている。
つぎに、投資の拡大には、内外需の増加を背景にした企業の能力増強投資、インフラ関連投資、新たなビジネスチャンスをとらえた投資が寄与している。メコン川流域の国では国境を跨ぐ広域開発や輸送網(国際幹線道路、鉄道、国際橋など)の整備が進んでいる。輸送網の整備は、①域内のサプライチェーン拡大、②国境沿いの工業団地への工場進出、③労働コストの高い国から低い国への生産シフトの動きをもたらしている。
さらに近年、中国沿海部における賃金上昇と人手不足、「中国リスク」の台頭などにより、外資系企業によるASEAN地域への投資が拡大している。このようにASEAN地域の内需拡大に、この地域を取り巻く環境が有利に作用している。

(2)13年入り後減速したインドネシア、タイ
四半期ベースをみると、中国の景気持ち直しと各国の景気対策などにより、12年10~12月に成長率(前年同期比、以下同じ)が上昇したものの、中国経済が再び減速したこともあり、13年1~3月期には多くの国で成長率が再び低下した。
韓国では景気悪化への懸念が強まったため、春先以降補正予算の編成、予算の前倒し、利下げなどが実施された。これにより、前期比成長率が1~3月期の+0.8%から4~6月期に+1.1%、前年同期比成長率も+1.5%から+2.3%へ加速した。その後民間消費と投資の持ち直しが進んだため、7~9月期は前期比+1.1%、前年同期比+3.3%となった。
他方、台湾では対中輸出が年半ばから再び減速したのが響き、7~9月期の成長率は前期の+2.5%を下回る+1.6%となり、回復ペースが鈍化している(「台湾」を参照)。
ASEAN諸国をみると、マレーシアでは内需の拡大により7~9月期の成長率は前期を上回る+5.0%となったが、インドネシアとタイでは減速している。1~3月期、4~6月期、7~9月期の成長率はインドネシアで+6.1%、+5.8%、+5.6%へ緩やかに低下しているのに対して、タイでは+5.4%、+2.9%、+2.7%と減速が著しい(右上図)。景気の減速要因としては、以下の3点が指摘できる。
第1は、資源需要の低迷とそれに伴う一次産品価格の下落である。中国の成長減速により、資源に対する需要が減少し一次産品価格が大幅に下落した。
これにより、一次産品(天然ゴム、天然ガス、石炭、パームオイルなど)依存度の高いインドネシアでは輸出額が急減した。他方、6%程度の成長が持続し、投資と消費が拡大してきたため輸入が膨らみ、12年半ば近くから貿易・経常収支が悪化した。これが後述する通貨安とインフレをまねくことになった。
第2は、消費の増勢鈍化である。とくに著しく減速しているのがタイである。タイでは洪水(11年夏から秋)後に導入された消費刺激策(法定最低賃金の引上げ、コメの高値買い取り、初めて自動車を購入する者に対する減税など)効果の剥落もあり、民間消費の伸び(前年同期比)が1~3月期の+4.4%から4~6月期に+2.5%、7~9月期には▲1.2%となった。自動車販売は5月以降前年割れとなり、9月は前年同月比▲28.5%になった。生産調整が進めば、関連産業にも影響が広がる恐れがある。インドネシアではこれまで民間消費は堅調に推移しているが、今後インフレと利上げの影響による減速が懸念される。
第3は、投資の減速である。総固定資本形成の動きをみると、これまで急拡大してきた反動もあるが、総じて減速傾向にある。タイでは7~9月期に▲6.5%となった。
また、インドではインフレ抑制を目的に相次いで利上げを実施した影響により11年以降景気が減速した。最近では13年4~6月期まで3期連続で4%台の成長が続いている。一方、中国ではインフラ投資の拡大により、7~9月期の成長率が7.8%と4~6月期より0.3%ポイント上昇した(詳細は「中国」を参照)。

(3)インド、インドネシアでは通貨安、インフレ、利上げ
多くの国ではインフレが抑制される一方、景気回復が遅れているため、金融緩和基調が続いているが、インドとインドネシアでは13年半ば以降、数次にわたり利上げが実施された(右下表)。 両国に共通するのは経常赤字の拡大とそれによる通貨安の進行である。
インドネシアでは貿易収支の悪化を受けて、13年に入って輸入抑制措置が実施された結果、3月に6カ月ぶりの黒字となったが、輸出の減速が響き4月以降再び赤字となり、通貨安が進んだ。6月に利上げが実施されたほか、財政赤字削減と輸入抑制を目的に燃料価格の引き上げが行われた。しかし、通貨安に歯止めがかからず、9月には1ドル=11,321ルピア(月中平均)へ下落した(13年1月は1ドル=9,659ルピア)。こうした現状を受け、貿易収支の改善と為替の安定を目的に、8月23日に緊急対策(鉱物輸出の割当量制限の緩和、輸出比率が30%以上の企業への優遇税制、高級な輸入品に課すぜいたく税の対象拡大、輸出産業の拡大など)が発表された。さらに7月、8月、9月、11月に追加利上げが実施された。
インドでは12年4月の利下げ実施後、インフレ率の高止まりからしばらく政策金利が据え置かれてきたが、インフレの抑制と景気の減速を受けて、13年に入って3回利下げが実施された。しかし、経常赤字の拡大を背景に通貨安が進み、インフレが再び加速(卸売物価上昇率が8月の6.1%から9月6.5%、10月7.0%)したため、9月、10月に利上げが実施された。
12年以降の主要国通貨の対ドルレートをみると、①インドルピーとインドネシアルピアが大幅に減価したこと、②タイバーツは12年半ば以降大幅に増価した後、元の水準へ戻っていること、③韓国ウォンが13年半ば以降増価していることがわかる。ウォン高の背景にあるのは経常黒字の拡大である(「韓国」を参照)。 

2.2014年のアジア経済
2014年は内外需の持ち直しにより、ほとんどの国で13年を上回る成長率となる見通しである。中国は13年と同じ7.7%、インドは4.9%の成長になるものと予想される。
(1)2013年をやや上回る成長に
2014年の成長率が13年を上回るのは、欧米先進国の景気回復の進展により、輸出の持ち直しが期待されるからである。ただし、新興国経済が以前ほどの高成長にならないため、勢いをやや欠く展開となろう。
内需に関しても、一部の国・地域を除き、総じて緩やかな拡大が予想される。①所得の上昇と中間層の増加を背景に消費の拡大が続くこと、②景気回復の進展とアジア地域の経済統合への期待を背景に、国内外企業による投資が増加すること、③不足するインフラの整備を目的にしたプロジェクトが進展することなどがその理由である。
2014年は、韓国や台湾などでは3.5%程度、ASEAN諸国では5~6%台の成長となろう。インドネシアでは利上げとインフレ加速の影響が懸念されるものの、その影響は限定的となる見込みである。
中国は7.7%の安定した成長が予想される一方、インドは持続的成長に向けて引き続き物価安定と経済構造の改革が優先されることもあり、4.9%とやや低い成長となろう。
 
(2)2014年の注目点
2014年のアジア地域で注目したいのは以下の3点である。
第1は、中国経済の動向である。中国経済を展望する上でポイントになる一つは、大規模な景気対策に頼ることなく安定した成長を維持できるかどうかである。13年に景気が減速したときにも、リーマンショック後に打ち出されたような大規模な景気刺激策は実施されなかった。大型の景気刺激策がその後の不動産価格急騰、生産過剰などの弊害をもたらした教訓からである。14年もこうした姿勢を貫けるのか否かが試されよう。
もう一つは、改革の推進に伴う景気への影響である。13年11月の「三中全会」で財政、金融を含む包括的な構造改革方針が打ち出された。14年から具体策が実施されていくことになるが、地方政府債務の処理が優先され、財政規律や税収基盤の強化が図られることにより、地方の活力が損なわれないか危惧される。安定成長の維持と改革の両立が中国の課題といえよう。
第2は、韓国経済のゆくえである。韓国では従来の「財閥主導型の成長モデル」からの転換が迫られている。「創造経済」の実現を通じて産業の高度化を推進しながら、経済民主化(大企業と中小企業の共生)と福祉の充実に向けた取り組みを進めていけるのか、朴槿恵政権の手腕が問われる。
第3は、アジア地域における経済統合に向けた動きである。アジアでは貿易と投資を通じて、実体経済面における相互依存関係が形成されてきた。制度面ではこれまで、①ASEAN域内の経済統合(2015年に「経済共同体」の実現)、②ASEANと域外国(中国、韓国、日本、インドなど)との経済連携協定締結、③二国間の経済連携協定締結という形で進んできた。
2013年には、これらを包含する形で地域包括的経済連携(RCEP)の実現に向けた取り組みも始まった。ASEAN10カ国に、日本、中国、韓国、インド、豪州、ニュージーランドの16カ国が参加する。GDPの合計が約20兆ドルと世界の3割、人口は34億人で世界の半分を占める。2013年に交渉を開始し、2015年末までに交渉を妥結させる計画である。
これと関連して、日本、中国、韓国の動きが注目される。アジアの経済統合がASEANを中心に進むなかで、韓国と中国のFTA交渉が12年5月に開始され、13年9月上旬モダリティに関して基本的に合意した。貿易品目の90%、輸入額の85%で関税を撤廃する予定である(韓国はEUとのFTAでは品目ベースで98.1%、米国とのFTAでは98.3%であることを考えれば、自由化の水準はさほど高くない)。さらに日中韓3カ国間のFTA交渉も2013年5月に開始された。農業や自動車などのセンシティブな分野で各国政府がどのような姿勢を示すのか、先行き不透明さが残るものの、3カ国間のFTA交渉が進展すれば、アジア全体の経済統合に向けて大きな前進となろう。
 このほか、米国のQE3縮小の影響も予想されるため、引き続き為替レートの動き(インド、インドネシア)に注意が必要であるほか、政治不安定化のリスク(タイ、台湾)にも注意を払う必要がある。
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