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【「CSV」で企業を視る】(13)食品メーカーによる契約農家からの原料調達と顧客組織化

2013年11月01日 ESGリサーチセンター長、 足達 英一郎


 本シリーズ13回目となる今回は、共有価値創造の手法の1つである「バリュー・チェーンの生産性を再定義する」事例として、食品メーカーによる契約農家からの原料調達と顧客組織化を取りあげる。食品メーカーにとって、原料調達は、製品のコスト、品質、安定した供給を左右する決定的な要素である。昨今では、経済のグローバル化にあわせて、海外から安い農産物を調達したり、海外において安価な労働力を使って製品加工を行う例も目立つ。そんななかで、カゴメは、国内契約農家からの原料調達を基本として、業容を拡大させているユニークな企業である。

(1)国内契約農家からの原料調達へのこだわり
 カゴメでは、古くから「契約栽培(面積・数量)」という調達方式をとっている。これは、「あらかじめ、作物の品種や栽培面積、出荷規格などを決めて栽培を依頼し」、「収穫された分は、全量、カゴメが買い取る」という調達方式である。
現在、トマト、にんじん、ビート、クレソン、プチヴェールなど、国産原料の大部分が契約栽培になっているという。トマトジュース用の国産トマトの場合、加工工場は、那須(栃木県)にある。トマトの旬は夏であるが、トマトジュースの生産が一時期に集中しすぎないようにする必要がある。そのため、工場の近隣を中心に、標高差などを利用してさまざまな産地の農家と契約栽培を行って、安定的に生産することを可能にしている。
もちろん、トマトの栽培農家にとっては、一定の面積・数量を買い取ってもらうことで、市況に左右されない収入が確保できる大きなメリットが生まれる。一方で、カゴメは、安定的生産を実現すると同時に、原料がいつ、どのように栽培されたのか、履歴が明確になり、安全な原料を得ることがでるというメリットを獲得できる。まさに農家とメーカーの『共有価値』が創造されている。

(2)きめ細かい農家への経営指導も
 さらに、農家が得るメリットは安定収入にとどまらない。契約農家が栽培を行う過程では、カゴメの担当者が畑一枚まで自分の目で確認して、どのようにしたらたくさんの高品質なトマトがとれるか、 丁寧に指導を受けることができる。具体的には、繰り返し指導会、巡回個別指導が実施されているという。カゴメにとって「畑は第1の工場」という考えのもと、年に何度かは、社長も農家との交流の場を持ち、関係を深めているという徹底ぶりだ。ここでも、農家とメーカーの『共有価値』が創造されているといえるだろう。

(3)契約農家からの原料調達を可能にするビジネスモデル
 農家とメーカーが契約栽培を通じて原料調達を行うことの最大のネックは、製品の売れ行きが大きく変動することであろう。当然ながら、売れ行きが減少すれば、契約農家から調達した農産物は余剰となってしまう。こうした課題を少しでも解消するために、カゴメは消費者に向けても、年間に決まった商品が決まった時期に届く、通信販売メニューを拡大させることに特に力を入れている。

 1998年にスタートした、カゴメの通信販売「健康直送便」は、その代表的な事例である。当初は、その年の夏に収穫した特別なトマトを『夏しぼり』というトマトジュースにして、消費者に直接提供するというものであった。現在、「旬シリーズ」という名称で展開されている購買メニューでは、トマトのほか、もも、洋ナシ、みかん、りんご、にんじんの缶ジュースについて、年間に一定数量以上購入することを条件に割引価格や送料無料を提供して、消費者にも一種の契約購入を誘導している。一般スーパーの特売品の缶ジュースと比べると決して安くない商品ながら、完売になるケースも少なくないという。消費者には、栽培中の原料の生育状況が知らされたり、トマトの苗がプレゼントされたりするサービスが評判を呼んでいる。
 こうした企業努力が、国内の農業振興に寄与している側面にも注目したい。また今後、世界的な気候変動が進行していくと、食品メーカーには原料調達の大きな脅威が生じるといわれている。そうした観点からも、カゴメのビジネスモデルは、リスク耐性に優れたものと評価することができるだろう。

[1]カゴメ株式会社ホームページ
[2]カゴメ株式会社CSRレポート2012

*この原稿は2013年10月に金融情報ベンダーのQUICKに配信したものです。
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