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アジア・マンスリー 2013年10月号

【トピックス】
岐路に立つ日韓経済関係

2013年10月01日 向山英彦


最近の日本と韓国との経済関係は、政府間関係の悪化と2012年末以降の急速な円安・ウォン高によりマイナスの影響を受けている。今後の動きに十分な注意が必要である。

■対日輸出が大幅減に
韓国では2012年末以降、急速な「円安・ウォン高」に見舞われた。ウォン・円レートは12年1月の100円=1,400ウォン台から12月に1,200ウォン台、13年1月に1,100ウォン台、5月には1,000ウォン台へ上昇した。急速な「円安・ウォン高」による経済への影響が懸念されたが、これまでのところ限定的にとどまっている。ただし、日本との経済関係に関しては、以下に指摘するような影響が表れている。

 第1は、対日輸出の大幅な減少である。韓国の対日輸出は2010年、11年と全体を上回る伸びを記録した。とくに11年は日本で東日本大震災による工場の操業停止と電力不足、「超円高」が生じたこともあって+40.8%の高い伸びとなった。従来から伸びていたスマートフォンに加えて、石油製品や日用品、自動車部品などが著しく伸びた。
 
12年は前年に急増した反動と年末以降の「円安・ウォン高」により▲2.2%(全体は▲1.3%)へ低下した。対日輸出は13年に入ると減速が進み(右上図)、1~8月は全体の+1.7%を大幅に下回る▲12.2%となった。

品目別(1~7月)では、鉄鋼製品(SITC67)が30%以上減少した一方、10年から12年まで2桁の伸びを続けた自動車部品(SITC784)は▲3.2%にとどまった。これは日産・ルノーグループのように、韓国企業を含む形で部品の調達ネットワークが形成されているためといえる。

対日輸出が減少したことにより、2010年から12年まで減少してきた韓国の対日貿易赤字が再び増加する傾向にある。
第2に、日本からの観光客の落ち込みである。李明博前大統領による竹島(韓国名は独島)上陸を契機に政府間関係が悪化したことに、「円安・ウォン高」の影響が重なり、12年秋口以降日本からの観光客数が落ち込み始め、4月以降は前年を3割程度下回っている。最近では、この落ち込み分を中国からの観光客の増加(1~7月は前年同期比+52.2%)が穴埋めしている。

第3に、日本からの直接投資の減少である。昨年急増した反動によるところが大きいとはいえ、13年上期の日本からの直接投資が前年同期比▲48.6%となった

韓国では対日貿易赤字の削減をめざして、日本からの輸入が多い部品・素材の国産化を図ってきた。近年、亀尾(慶尚北道)、浦項(慶尚北道)などに、主として日本企業向けの「部品・素材専用工業団地」を相次いで設置した。他方、韓国企業に素材、部品を供給する日本企業にとっても、韓国に投資するメリットが顕在化した。供給の拡大に伴い現地生産しても採算がとれるようになったほか、現地生産により、①納入先とのコミュニケーションが容易になる、②共同開発が進めやすくなる、③為替変動リスクを回避できる、④生産コストを削減(低い法人実効税率や安い電力料金を含む)できることなどである。また韓国政府がFTAの締結を積極的に進めてきた結果、同国が輸出生産拠点としての魅力を増したことも指摘できる。

しかし、「超円高」の是正、韓国における電力料金引き上げ、日本政府によるTPP(環太平洋経済連携協定)交渉への参加などにより、メリットは以前ほどではなくなりつつある。
このように財の貿易、観光、投資などの分野で、韓国と日本との関係がやや薄まりつつある。さらに最近では、両国間の通貨スワップ枠が縮小された(右下図)。欧州債務危機後のウォン急落を受けて拡充された(130億ドルから700億ドル)分が期限を迎えた12年10月末に、延長されずに終了したのに続き、今年7月3日に期限を迎えた中央銀行の30億ドル分も延長されずに終了した(残る100億ドル分は15年2月に期限到来)。ウォン急落のリスクが小さくなった(本誌「韓国」を参照)ことによるものであろうが、政府間関係の悪化が影響したのは否めない。
■懸念される今後の動き
これまで日韓の経済関係は政府間関係がぎくしゃくしてもあまり影響を受けてこなかった。大企業同士(グローバル展開する韓国の大企業、素材や部品を供給する日本企業)の関係が中心で、企業が政治に一定の距離を置くとともに、日韓経済人会議などを通じて交流を深めてきたためと考えられる。しかし、ここにきて日本企業が懸念を抱く事態が生じている。

それは戦時中に徴用された韓国人労働者が日本企業を相手に起こした訴訟で、ソウル高裁が賠償を命じる判決を言い渡したことである。大法院(最高裁)で判決が確定すれば、日本企業の韓国ビジネスに影響を及ぼすだけではなく、両国間の関係を揺るがす恐れがある。というのは、訴訟が起こされたのは、2012年5月に大法院が個人の請求権は効力を失っていないとの見解を示したことにもとづくが、そもそもこの見解は1965年に締結された「日韓請求権ならびに経済協力協定」(略称)での合意に反する。韓国政府もこれまで徴用者の賠償問題は解決済みとの見解を示しただけに、その対応に苦慮するものと予想される。

この問題を含む両国間の懸案事項を少しでも解決するためには、早期に首脳会談を実現させて政府間関係を正常化していくことが不可欠である。
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