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日本からインドネシアへの生鮮品輸出について

2013年09月13日 斎藤 創


拡大・多様化する食の消費市場

 インドネシアは周辺国と比較しても圧倒的に多い人口2.4億人を抱えるとともに、近年の年率6%台という高い経済成長によって国民の購買力も急速に高まってきている。購買力の目安ともなる一人当たりGDPは、電化製品や自動車等の耐久消費財が急速に普及し始めるともいわれる3,000米ドルを超え、5年後には5,500米ドルの水準になると見込まれている。これはASEANのなかで先行して発展が進むタイ(人口約6,500万人)の約6年前、マレーシア(同約3,000万人)の約13年前に相当する水準であるが (※1)、人口規模の大きさから巨大な潜在的マーケットとしての注目を集め、近隣諸国や欧米、中国、韓国等から新商品・サービス、新業態が展開され出している。
 このような変化の中、一般消費者の食を巡っては、スーパーやコンビニエンスストア(※2) でのテイクアウト品等の中食業態、ファーストフード業態の普及など喫食スタイルの多様化が進んでいる。また、近年オープンが相次ぐショッピングモール(※3) にあるフードコートでは、手軽に様々なメニューの食事を摂ることが日常的になりつつある。
 各国の専門レストランの数も多くなってきており、店舗全体に占める割合はインドネシア料理と中華料理が圧倒的に多いものの、それ以外では日本食レストランが多いようである。日本食については、回転寿司店のみならずテイクアウト式の手巻き寿司店が出るほど「日本食=寿司」のイメージ・人気が強いが、ほかにはすき焼き、しゃぶしゃぶ、麺類(ラーメン、うどん)などが人気となっている。

飲食店紹介サイト「RestoDB.com Indonesia          テイクアウト寿司の販売風景
   dining guide」への店舗登録数               (ジャカルタ市内スーパーマーケット)

(出所)同サイト(平成25年8月19日アクセス)       (出所)筆者撮影(平成24年12月)
から筆者集計

輸出拡大が進んでいない日本産生鮮品

 こうした中、日本食人気が拡大するインドネシアへの日本産農水産物・食品の輸出拡大を図るべく、農林水産省では品目別の輸出拡大戦略の検討や輸出側と輸入側のマッチング支援、試食販売等のプロモーション支援などを行っている。
 品目別に見ると、菓子や調味料、清涼飲料水などの加工品については、食品メーカーの積極的な海外展開の動きもあり、日本からの輸出もさることながら、インドネシアでの現地生産やタイ等の隣国での生産・輸入が急速に拡大してきた。なお、価格競争力を考えると、一部の高級品や技術的に日本国内でしか生産できないものなどを除き、今後は日本からの輸出よりも海外生産の方が大きく進展していくものと思われる。
 しかし生鮮品については、一般消費者から「美味しい」「甘い」「見た目がよい」など様々な高評価を得つつも、果物(リンゴ)と主に加工原料や寿司ネタの一部となる水産物を除き、ほとんど輸出できていない(※4) 。コメも肉(牛、鶏、豚)も輸出できていない状況である。
 生鮮品輸出が小規模に留まっているのは、規制・制度的な課題(インドネシア側の輸入規制)の影響も色濃く、緩和措置などの政府間交渉に依らざるを得ないところも大きい。しかし、比較的安定して輸出ができているリンゴ以外の果物へと輸出品目を広げていくなど、マーケティング次第では輸出拡大していける余地はまだまだ大きいと思われる。

日本産生鮮品(特に果実)の販売拡大に向けたポイント

 政府レベルの対話を待つだけでなく、個々の輸出者の取り組みで輸出拡大を図っていくためのポイントをいくつか挙げてみたい。例えば生鮮品(特に果物)については、次のようなポイントがある。

①既に高評価を得ているリンゴに続き、モモ、ナシ、ブドウ、イチゴの可能性を検討する

 リンゴは主に米国産が多く流通している。米国産と比べた日本産の店頭価格は概ね3~10倍(有機栽培かどうかでかなり異なる)という高価格であるが、一定の富裕層や贈答用としてのマーケットを開拓している。美味しいという評価のほか、サイズが大きいなど見た目がよい点などが受け入れられている理由である。
 また、モモ、ナシ、ブドウ、イチゴについては、まだ日本産の流通はなく、ナシは韓国産、イチゴは韓国産と米国産、ブドウは現地産が主に流通している。しかし、それらは甘くない、みずみずしくないという不満の声も聞かれる程度の品質であるため、今後、日本産のものが出回るようになれば、日本産リンゴの購入顧客層から受け入れられる可能性は高い。またスーパー側も、売上拡大や日本産の取り扱いを通じた店のグレード(格)の維持・向上に貢献することから、日本産の果物の追加に積極的であるため、日本農業にとってはチャンスといえる状況にある。
 このようにして日本産を複数品目輸出できれば、さらに「日本産詰め合わせ」のようなパッケージによる贈答需要の掘り起こしにもつなげられるだろう。

②販促活動を小売店任せにせず、試食販売を中心に積極的に企画提案していく

 日本産は輸送費なども重なり、前述のリンゴ価格の通り、他産地と比べてかなりの高額で販売せざるを得ない面がある。そのため、富裕層が多く訪れる高級スーパーマーケットに卸すのが一般的となっている。ところが、そのようなスーパーであっても店頭に並べるだけで好調に売れていくわけではない。そもそも富裕層といえども日本産リンゴの喫食経験者はごく限られており、認知度向上と「高いことには理由がある」という価格差への納得を得る取り組みが求められる。
 よって小売店側の「売る力」に依存するのではなく、他産地との中身の違いを理解してもらう近道である試食販売のほか、販促媒体の提供など、小売店側には販促活動を積極的に企画提案していくことが重要である。

③複数の産地・事業者が連携して販路拡大・販促活動に取り組む

 生鮮品に限れば、インドネシアへの販路拡大のステージは、日本の個々の産地や事業者が互いに競合としてパイを奪い合う競争というよりも、まずは現地産や既に高シェアを誇る欧米産などから「日本産」のシェアを作り出すステージであると思われる。ところが、単独の産地や事業者では予算制約などから大がかりな販促活動も難しく、また、供給量や供給時期が限られるために訴求力や提案力が弱い。小売店舗の中で日本産を取り扱う棚を維持することも難しい。
 そこで、一言でいえばオールジャパンで輸出拡大に取り組むということであるが、複数の産地・事業者が連携して、「日本産」としての認知度向上や小売店の開拓などを進めることが考えられる。例えば、リンゴであれば青森と長野、モモであれば山梨や福島、長野などが共同することで、単独よりも大がかりな販促活動を展開できる可能性が生まれる。また、産地によって旬の出荷時期や品種が異なることにより、供給時期の長期化(つまりは日本産を取り扱う棚の維持)やバリエーションの魅力を訴求することができるようになるだろう。


 最後に、インドネシアの富裕層は、常に新しい消費体験(食との出会い)を求めており、スーパー側もそうしたニーズに応えるべく、日本産の魅力的な商材を常に求めている。インドネシアへの生鮮品輸出はまだまだこれからであるが、上記ポイントを踏まえた展開により、今後は拡大していけるだろう。


               果物売り場の様子(ジャカルタ市内スーパーマーケット)
               *左写真下段の包装されているリンゴが日本産

                                      (出所)筆者撮影(平成24年12月)


(※1)GDPおよび人口はIMF「World Economic Outlook Database」。
(※2)一人当たりGDPが1,000米ドルを超えると、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの「近代的小売」が急速に普及し始めるといわれている。
(※3)ジャカルタに73箇所もあるといわれている。
(※4)インドネシア国内では日本産の生鮮品を食経験することがほとんどできないことから、これらの評価は、主に、来日、あるいはインドネシア以上に日本産が流通しているシンガポールなどへの訪問の際に経験したことがある人によるもの。



※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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