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CSRを巡る動き:多国籍企業の課税回避問題とCSR

2013年08月01日 ESGリサーチセンター


 多国籍企業の巧妙な課税回避に対する批判が高まっています。G8サミットでは、首脳宣言において、企業等の金融機関の口座情報を各国で共有化することにより課税回避を防止する仕組みづくりが盛り込まれました。企業による課税回避の問題は、米国の大手飲料チェーンやIT企業等の課税回避策が米英の議会で取り上げられたことから注目が集まり、ロンドンでは抗議デモが発生するなど市民社会からの批判が高まりました。その後さらに、米国企業だけでなく、英国の上下水道サービス供給会社や菓子・飲料メーカーなどにおける課税回避が明るみになるなど、批判を受ける企業も拡大の一途をたどっています。ここで問題となっている行為はあくまで法律的には合法です。しかし、海外に設立した子会社との取引を活用するなど、巧妙に利益を税率の低い国に移し、実際に事業を行っている国に税金を納めていないとして市民社会が怒りの声を挙げているのです。

 こうした行為を企業の社会的責任(CSR)の観点から問題視する動きも出ています。株主の視点に立てば、企業が可能な限り税金対策に努め、利益を最大化することが当然であるようにも思われます。しかし、企業は通常、事業活動を行う国や地域からの一定の恩恵のもとに事業を営んでいます。具体的には、操業する地域から人材の供給や資源の利用、現地のサプライヤー企業との取引、あるいは社会的な各種インフラや行政サービスに支えられているといえます。今回のケースでは、批判を考慮して自主的に納税することを宣言する企業も表れているように、市民社会の活動が活発化する中、中長期的に事業を展開していくためには、地域社会の理解や良好な関係構築は不可欠であるとの経営判断もありえます。これは、まさに企業のCSR活動を理論的に支持する「ステークホルダー経営」の考え方が指摘するところといえるでしょう。

 ただし、ステークホルダー経営の立場から見ても、課税回避が常に悪とばかりは言い切れない側面もあります。なぜなら、今回取り上げられた多国籍企業の中にも、CSR活動の一環として地域社会貢献活動に力を入れている企業が多数存在しています。事業を行っている国や地域からの課税を回避し、利益の積み増しに成功する一方で、地域貢献と銘打って社会貢献活動や地域コミュニケーション活動に支出を行っています。こうした企業が社会的責任を果たしているといえるか否かについては、個人の価値観や考え方にも大きく依存するところがあり、意見が大きく分かれるところでしょう。課税回避の程度や、地域社会貢献活動の内容を精査し、個別に判断する必要があるという意見も有り得るでしょう。

 この問いに対する答えを一義的に用意することは困難ですが、少なくとも今後、多国籍企業は、納税に対する自社の考え方をステークホルダーに対してしっかりと説明していく必要性が高まっていくと考えられます。既に、社会的責任投資を実践する投資家に対して、投資先企業の課税回避の問題を投資判断の基準に加えることを要求するNGOも現れています。今後、多国籍企業の課税回避の問題は、政治的な論争の対象となるだけでなく、企業のCSRにおける新たなトピックとして注目が高まっていくことが予想されます。
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