オピニオン
「統合報告」と攻めの企業経営を促す「長期投資」
2013年06月26日 林寿和
国際統合報告評議会(IIRC)が公表した統合報告フレームワークに関する草案が現在、パブリックコメントにかけられている。統合報告は、企業の情報開示を巡る新たな動きとして、フレームワーク作りが進められてきたが、その草案が示されたことで、注目が高まっている。
統合報告の特筆すべき最大の特徴は、長期的な視座を持ち企業価値を高めようとする企業を評価し投資判断を行う「長期投資家」のための情報開示を要求している点にある。その背景には、特に欧米で批判が強まっている「行き過ぎた短期主義(ショート・ターミズム)」への反省がある。ショート・ターミズムの問題点は様々に指摘されているが、企業経営においては、技術や人材といった企業価値の源泉への投資が行われず、短期的な利益確保が過度に追求される結果、長期的には競争力を失ってしまうことが指摘されている。さらに、そうした企業経営におけるショート・ターミズムを、短期的な利益確保を至上命題とする投資家が一層促しているという指摘がなされている。
一方、6月14日に閣議決定されたアベノミクスの「3本目の矢」である成長戦略「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」においても、同様の問題意識が示されている。成長戦略は、成長への道筋の一つとして産業の新陳代謝の促進を掲げ、株主が『攻め』の企業経営に向けた経営者の思い切った判断をこれまで以上に強力に促す」ことが必要であるとしている。具体的な施策として
(1)機関投資家が対話を通じて企業の長期的な経営を促すために日本版スチュワードシップコードの検討
(2)収益性や経営面での評価が高い企業で構成される株価指数を設定するように証券取引所への働きかけ
等が盛り込まれている。前者については年内に議論を取りまとめるとしており、期限が示されていることからみても、「長期投資」の普及とそれによる長期的な企業経営の促進が、喫緊の政策的課題であるという政府の認識が示されているものといえる。
長期的に企業価値を高めようと努力する企業に、投資家からの支持が集まるのは、本来ごく当たり前のことのように思われる。しかし、投資家のショート・ターミズム是正のために、欧米で様々な政策的対応の必要性が議論されているように、その是正は一筋縄ではいかない。そうした中、統合報告は、先に述べたとおり「長期投資家」に向けた新しい形の情報開示を企業に求めるものであり、両者のコミュニケーションを改善する一つの有効なツールとなり得るものである。今回の統合報告草案や、成長戦略をきっかけとして、わが国における「長期投資」の在り方について議論が高まることを期待する。
※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。