近年、企業の新興国市場参入方法に変化の兆しが見られる。従来は都市部×富裕層もしくは中間層以上を主な対象市場として参入する方法が一般的だったが、新興国の経済成長に伴って、地方都市や農村部市場(特に中小規模都市、農村部の中間層)の高い購買力ポテンシャルに注目が集まるようになり、これら市場への参入も同時並行に検討する企業が増えてきている。すでに欧米企業や韓国企業による、新興国の地方都市での市場獲得競争が始まっており、この動きに遅れを取ってはならじと、検討を急ぐ日本企業も現れている。
新興国の地方中小都市に注目が集まる背景は、その人口の多さにある。また新興国の経済成長に伴い、政府が地方中小都市のインフラ整備を進めていることにより、市場性が増していることも理由の一つに挙げられる。注目度の高い新興国4カ国の都市の人口規模別の都市人口を見ても、人口の約8割は地方の中小都市に集中していることが分かる。
図1 都市の人口規模別 都市人口(2010年、百万人)
(出所:The Boston Consulting Group「新興国都市:世界最大の成長機会」p.9)
最近では、このような大都市以外の市場を総称して、RUSU(Rural & Semi-urban)市場と呼ぶことがあるが、RUSU市場は都市部×富裕層市場とは異なる特徴を有している。例えば、インドのRUSU市場の特徴は下表の通りである。インドでは人口200万人以下の都市をRUSU市場と定義している。
図2 インドのRUSU市場とURME市場 の比較
(出所:Jayanta Kumar Sihna「Winning in Rural & Semi-Urban Markets in India by Building a Sustainable Value Chain」p.8)
都市部(URME: Urban & Metropolitan)市場では、月給をもらって生活するような人々が増加し、生活も先進国のように近代化しているため、先進国のマーケティング手法を比較的持ち込みやすい。しかし、RUSU市場は農民や日雇い労働者が圧倒的に多く、稼ぎ方や生活習慣が全く異なるために、都市部市場のような購買行動が起こりにくい。また識字率が低いために商品認知から購買行動につなげるためには様々な工夫が必要となる。基本的には価格重視の消費者が多いが、自らが必要とする商品やサービスは、購入方法を工夫して手に入れようとする。つまり売る側に、様々な販売方法のオプションを設計することが求められる市場である。
図3 URME市場とRUSU市場の購買行動比較
(出所:日本総合研究所)
ポテンシャルは高いものの攻略が難しいと言われる、RUSU市場に参入するためには、どのような考え方や検討の進め方が必要なのだろうか。今回、日本総合研究所では、これまでの新興国農村市場での調査や、ビジネス立ち上げ支援の経験から培った知見・ノウハウを取りまとめ、RUSU市場参入に際して具体的に参考になるガイドブックを作成した。このガイドブックは、インドの農村部でのビジネス立ち上げやその運営事業を数多く手掛けている、Drishtee Foundationとの共同執筆である。両者の成功・失敗の経験に基づいて作り上げたものであるために、極めて「泥臭い」実践論が中心となっている。
本ガイドブックは、事業立ち上げの初期段階で必要なブレインストーミングのテーマ、進め方から、テスト事業の計画づくり、事業拡大の段階で検討すべきことまでをカバーしている。RUSU市場理解を相応に進めるために、活用できるノウハウを盛り込んでいる。新興国のRUSU市場を検討している企業に、ぜひ参考にしていただきたい。
具体的には(1)事業立ち上げに必要な社内の環境整備、パートナー選びの観点、(2)事業準備計画の立て方、(3)現地調査の方法、(4)事業内容やビジネスモデル案の検討方法、(5)事業拡大計画の立て方、の5段階について、新興国のRUSU市場でどのような取り組みを行うべきか、その考え方及び注意点について取りまとめている。RUSU市場では、特に現地を良く知るパートナー企業や団体と、共同で調査や検討を行うことが多いことから、本ガイドブックは英語で作成されている。
※ガイドブックの概要版については、下記PDFをご参照ください。
Guidebook_En.pdf