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ESG投資(1)「新たなESG投資に必要な視点「Value Creation」(価値創造)」

2013年04月10日 ESGリサーチセンター


 本稿では、社会的課題を考慮した投資の潮流を概観し、主流化が進むESG投資において、新たな手法が出てきている現状を述べる。その上で、国内でESG投資の多様化に向けて、企業のESG評価に「Value Creation」(価値創造)の視点を導入することを提案する。

社会的課題を考慮した投資の潮流
 昨今、社会的課題を考慮した投資残高は急増している。現在、社会的課題を考慮した投資は、一部は重なるものの、おおむね2つに大別される。従来型の投資に環境・社会・ガバナンス面などの非財務情報を考慮する「ESG投資」と、投資手法を用いることで、従来型寄付よりも効率的に社会的課題の解決を目指す「インパクト・インベストメント」である。ESG投資の資産残高は、2011年12月末時点で13.6兆ドル。既に、世界の資産運用残高の約22%を占め、主流化が進んでいる状況だ(※1)。インパクト・インベストメントの市場規模についての統計データは限定的であるものの、今後10年間で1兆ドルもの資金を呼び込むことができると言われている(※2)。金銭的リターンを追求する投資家の投資対象となり得るのはインパクト・インベストメントのうちの一部だが、近い将来、ESG投資のように主流化していくことは多いに想定される。
このような市場の発展に伴い、下図のように様々な投資手法が開発されてきた。ESG投資が主流化したのも、投資手法が多様化し、様々なリスク・リターン選好を持つ投資家の要望に応えることができるようになったからであるとも言える。

図表1:社会的課題を考慮した投資


(出所)Bridge Ventures「Ten Year Report」より日本総合研究所仮訳および一部加筆


 一方、日本では、ESG投資は主流化しておらず、その結果、ESG投資の手法も限定的である。企業のESG側面の分析については、取り組みの多寡を評価するのが一般的であり、それらがどのように企業価値向上に貢献しているのかといったような評価まではなされていないのが現状である。
以下、ESG投資の手法がどのように多様化しているのかを考察し、日本でもこのような多様化の進展に向けて、企業ESG側面の取り組みがどのように企業価値向上に貢献しているかを評価する視点である「Value-Creation」(価値創造)を、企業のESG側面の評価に導入することを提案する。

ESG投資における新たな考え方・手法

 ESG投資は、倫理的に問題のあるビジネスを実践するような企業に投資すべきではない、といった企業の責任性を重視する考え方に基づいて実践されてきた。しかし、昨今、特に2006年の国連責任投資原則(※3)発足以降、ESG投資の主流化と相まって、ESG側面への取り組みは、将来の企業価値に密接に関わってくるとの新しい考え方が登場してきた。
新たな考え方は、主に2つの方向性がある。1つは、ESG側面への取り組みをリスクの観点からとらえる方向性で、「適切にESGリスクを管理できない企業の企業価値は将来的には毀損する」との考え方である。この考え方に基づく手法例としては、より広範なリスクを網羅するために、既存のリスク評価にESG評価を取り入れるといった手法がある (図表1の「責任投資」の赤枠内)。
 もう1つは、ESG側面への取り組みをオポチュニティーの観点からとらえる方向性で、「ステークホルダーへの配慮を行うことで企業は競争力を強化できる」との考え方である。この考え方に基づく手法例としては、持続可能性への貢献を競争力評価に取り入れるといった手法がある(図表1の「持続可能性投資」の赤枠)。日本の多くのSRI型投資信託が取り入れてきたベスト・イン・クラスという手法からさらに一歩進み、ESGの取り組みと企業価値向上の関連性をより深く分析している点に特徴がある。例えば、この考え方を採用しているイギリスの運用会社であるGeneration Investment Management LLPは、持続可能な発展こそが産業の成長ドライバーであり、新たな経済・社会・環境や倫理問題に的確に対応しつつ金融リターンを最大化できる企業に注目して投資を行っている。さらに、2011年に発表されて大きな話題となった、マイケル・ポーター教授の提唱する「経済的価値と社会的価値を同時実現する共通価値の戦略(CSV: Creating Shared Value)」も同じような考え方に基づく。
 いずれの手法も日本では発展途上にある。特に、事例が乏しいことから、ESG側面の取り組みをオポチュニティーの観点からとらえる新たな手法についての馴染みが薄いと考えられる。そのため、以下では、ESG側面の取り組みをオポチュニティーの観点からとらえる新たな手法についての課題を検討する。

ESGをオポチュニティーの観点からとらえる新たな手法における課題
ESG側面の企業の取り組みの評価については、方針(Policy)・取り組み(Practice)・実績(Performance)などの「3P」を用いて評価することが多い(※4)。例えば、企業が女性従業員のキャリア支援にどの程度熱心かを測る場合は、女性活躍支援を積極的に推進していく方針があるのか(Policy)、具体的にどのような取り組みを実施しているのか(Practice)、女性管理職比率は何%か(Performance)の主に3点に着目する。これらは主にステークホルダーの視点からの企業の取り組みの評価である。
ESG投資の新たな手法は、「ステークホルダーへの配慮を行うことで企業は競争力を強化できる」との考えに基づいているため、「3P」のようなステークホルダーへの配慮に加えて、それらがどのように企業価値向上に結び付くかという情報が、新たな手法には必要となる。すなわち、「ステークホルダーへの配慮」と「競争力強化」とを結ぶような情報である。ここでは、そうした情報を「価値創造(Value-Creation)」として、企業のESG側面の評価に導入することを提案したい。

図表2:3P+Vフレーム


(出所)日本総合研究所 ESGリサーチセンター


 女性のキャリア促進について言えば、女性活躍支援を積極的に推進していく方針があるのか(Policy)、具体的にどのような取り組みを実施しているのか(Practice)、女性管理職比率は何%か(Performance)の3点に加え、そうした取り組み全般が、企業にどのような価値を付加しているのかという情報が「価値創造(V)」に当たる。例えば、そうした取り組みを実施することで女性顧客向けの新たなサービス開発が実現した、といったいわば“アウトカム”に当たる情報である。
「3P」に比べると、Vの評価はより定性的であり横比較が困難である。しかしながら、「ステークホルダーへの配慮を行うことで企業は競争力を強化できる」との考えに基づく投資を実践する上では不可欠であると考えられる。次回は、ESG側面への取り組みをリスクの観点からとらえる方向性についての解説を試みる。


※1 Global Sustainable Investment Alliance, (2012), 2012 Global Sustainable Investment Review
※2 Financial Times, (2012), Impact investing: making money the charitable way
  http://www.ft.com/intl/cms/s/0/894847e6-22a9-11e2-8edf-00144feabdc0.html#axzz2Nwiejb2R
※3 PRIは6原則により構成されている。PRIの6原則には、投資分析と意志決定のプロセスにESGの課題を組み込むことなどが含まれる。詳細はPRIのホームページ(www.unpri.org/)を参照されたい。
※4 Michael E. Porter, Mark R. Kramer, “Creating Shared Value:経済的価値と社会的価値を同時実現する共通価値の戦略,” DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー, June 2011.
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