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CSRを巡る動き20130201(水産資源の持続可能性)

2013年02月01日 ESGリサーチセンター


 2012年12月、欧州議会の漁業委員会において、共通漁業政策(CFP)の改正案が賛成多数で可決されたことが報じられました。水産資源の枯渇が深刻化していることを背景に、同改正案では、2020年までに健全な個体数にまで回復させるべく持続可能な漁獲高を設定すること、海洋資源の把握のために捕獲した水産物を海上で投棄することなく持ち帰ることを義務化すること、などを各国に求める内容となっています。国連食糧農業機関FAOが2012年に発表したデータによれば、世界の水資源利用状況について、「過剰利用または枯渇状態の資源」が29.9%となる一方、「適度または低・未利用状態の資源」は12.7%まで落ち込んでいます。

 現在、水産物の漁獲及びその加工・流通を行う事業者に対して、海洋環境の保全と水産資源の乱獲防止により持続可能な利用を行っていることを第三者が認証する制度として、海洋管理協議会(MSC)が定めたMSC認証が広く知られています。MSC認証は、水産物の漁獲に直接携わる漁業者に対する漁業認証に加えて、漁業認証漁獲物のみを使用する加工・流通業者であることを示すCoC(Chain of Custody)認証の二段階で構成されています。そして水産物の製品一つ一つには、持続可能な方法により漁獲された資源を使用した製品であることを示す「海のエコラベル(MSCラベル)」と呼ばれるラベルが消費者にも分かるように表示されています。

 この基準を管理する海洋管理協議会は、1996年、世界自然保護基金WWFなどの支援により設立されました。その後、認証を取得する動きは急速に広まり、現在では世界の1,600社以上の企業がCoC認証を取得しています。国内でも2006年に初めて「海のエコラベル」製品が発売されて以来、着実に製品数は増加しています。大手小売チェーンもCoC認証を取得し、「海のエコラベル」が表示されたプライベートブランド製品を展開しています。

 こうした持続可能な漁業に向けた取り組みが重要であることは明らかですが、MSC認証が対象とする天然由来の水産物の漁獲行為における配慮だけでは、水産資源の保全の観点からは必ずしも十分とはいえません。FAOの統計によれば、世界の漁業生産高のうち、養殖が占める割合が40%を越え、その生産高は約6千3百万トンに達しています。養殖の普及・拡大は、一見、水産資源の保全につながるかのように思いますが、養殖に使用される餌には、魚粉や魚油といった天然由来の水産資源を加工したものが大量に使用され、新たな問題として浮かび上がってきています。

 FIFO(Fish In-Fish Out)指数とよばれる指数があります。養殖による水産物を1kg生産するために、何kgの天然由来の水産資源が餌として必要かを表しています。例えば、広く養殖が行われているサーモンのFIFO指数は5とされています(国際魚粉魚油機構(IFFO)のデータに基づく)。つまり、生産される養殖サーモンの5倍もの天然由来の水産資源が使用されているというのです。現状の養殖産業は、天然由来の水産資源のうえに成り立っています。

 さらに、養殖業固有の海洋環境への影響も忘れることはできません。養殖の過程において養殖魚が逃げ出してしまうと周囲の生態系に影響を与える可能性があります。魚病対策に使用される抗生物質による環境や食品安全への悪影響も懸念されています。海洋管理協議会の設立に遅れること14年、持続可能な養殖を推進するための認証基準を定める水産養殖管理協議会(ASC)が2010年に設立されました。養殖版「海のエコラベル」であるASCラベルも登場しています。養殖を行う企業の側でも、透明性を拡大するための情報開示を行う企業が現れています。例えば、ノルウェーのサーモン・マス養殖大手のCermaq社では、毎年度のCSR報告書において、持続可能性に配慮した養殖の取り組み、使用した抗生物質の使用量や削減へのコミットメント、さらには、逃げ出してしまった魚の量などの詳細な情報開示を行っています。

 日本は周囲を海に囲まれ、世界でも有数の水産資源に恵まれた国の一つです。最近では、若年の魚離れを指摘する声もありますが、他国と比較すれば、一人あたりの魚介類の消費量が世界6位の水産大国です。しかし、我が国のたんぱく質摂取量の約2割を支える水産資源は、世界では確実に減少してきています。世界の食料供給を巡っては、2012年に米国で発生した干ばつの影響により穀物価格が高騰する騒ぎが起きましたが、気候変動による影響が水産資源にも大きく影響を及ぼす可能性が高まっています。世界の食糧供給の持続可能性に貢献するため、我が国においても持続可能性に配慮した水産資源の利用が今後一層求められていくことになるでしょう。
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