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東南アジア諸国間の「違い」を考える (第2回):教育水準

2012年12月06日 田中靖記


 東南アジア諸国間の「違い」を浮き彫りにする本シリーズの第2回は、東南アジア諸国の教育水準を取り上げる。教育水準の向上は、当該国の労働者・技術者の高度化や産業の生産性に寄与する。教育水準が高い国においては、高度人材※1が獲得できる可能性が高く、採用した人材に高い業務品質を期待できるなど、日本企業が現地へ進出する際のメリットがある。他には、当該国の識字水準などにより、マーケティング手法が異なる、教育関連のサービスに支出する金額が異なる、などの違いが生じる。

 教育水準を示す指標は、国際機関から複数提示されている。まず、国民全体の総合的な教育識字水準を示す指標として、国連より公表されている『教育指数※2』がある。初等から中等教育にかけての学力を示す指標としては、OECDが公表している『生徒の学習度到達調査※3(Programme for International Student Assessment (PISA))』が代表的だ。その他、高度人材の有無を判断するためには、国連が人間開発報告書(Human Development Report)において提示している『高等教育進学率※4(Tertiary Education Enrolment Ratio)』が参照されよう。より高度な専門的・国際的人材については、OECDが公表している『OECD諸国への海外留学生数※5』がひとつの指標として考えられる。



 『教育指数』をみると、指数0.9以上の「先進国」グループ、0.8台の「中進国」グループ、0.8未満の「発展途上国」グループとして区分することができよう。この指標は、多数の人が持つ教育水準の高低に関する「感覚」に近いのではないだろうか。
 一方で、『教育指数』以外の3つの指標からは、各国の違いが浮かび上がってくる。まず、『生徒の学習度到達調査』によると、「中国(上海)」の数値がシンガポール・日本を上回っている。教育分野においても、上海(もしくは沿岸部の大都市)は、中国国内の他の都市・地域と比べて先進国に近い状況にあることが示されている。
 『高等教育就学率』を見ると、タイとマレーシアが相対的に高い割合を示している。マレーシアでは、90年代後半から実施・拡充されてきた教育ローン制度(高等教育貸付基金)や、周辺諸国と比べて充実した大学授業料補助制度※6などが影響していると考えられる。タイとインドネシアを比較すると、『生徒の学習度到達調査』ではそれほど差がなかったが、『高等教育就学率』では倍程度の差がついている。
 『OECD諸国への海外留学生数』からは、中国・インドという2大国が、多くの海外留学生を輩出していることがわかる。留学先を詳細に見ると、インドからの留学生は、米国(51%)と英国(23%)へ集中していることに比べて、中国からの留学生は、米国(24%)・日本(16%)・豪州(16%)・英国(12%)・カナダ(7%)と分散する傾向にある。また、中国・インドに次ぐ海外留学生数のマレーシア・ベトナムについては、留学先の上位に英国(マレーシアで27%・同国1位の留学先)、フランス(ベトナムで13%、同国3位)がランクインし、旧宗主国が留学先の国になっていることが特徴的である。

 これらの事実から、多様な仮説を導き出すことができる。例えば……
・インドネシアはタイに比べて、高等教育就学率が低いため、現地で優秀な労働者を確保することは困難を伴うだろう。しかし、海外留学者数の多さから、外資企業が必要とするような海外留学を経験している、より高度な人材の確保は、インドネシアの方が容易になるかもしれない。
・ミャンマー・ベトナム・バングラデシュなどでは、高等教育を受けた人材が限定的であるため、現状では賃金が低く抑えられている可能性がある。経済発展に伴って労働者の賃金がその他の国に比べて高いスピードで上昇するだろう。
・マレーシア・ベトナムでは、英国・フランスという旧宗主国への留学者数が一定数存在しているため、旧宗主国からの投資が今後もなされる可能性が高い。留学生の増加は国内環流による高度人材の増加をもたらすばかりでなく、留学先の国との経済的・文化的つながりを強化させるだろう。

 教育の水準・質・内容およびその変遷は、当該国の将来を左右する重要な要素の一つであると同時に市場やビジネス戦略を検討する上でも欠かすことのできない要素である。当該国へ進出・事業展開するにあたっては、どのような現地の人材が必要であるのか、要件や職務内容を十分に定義し、人材の有無や将来にわたっての獲得可能性を必要とする人材に応じて、仮説を立てて吟味する必要がある。隣接諸国との人材融通・連携も含め、専門家の力も借りながら進出前の十分な検討が求められる。


※1:『高度人材』・・・「経済財政改革の基本方針 2008」(2008年 6 月 27 日閣議決定)で、受け入れを促進すべき「高度人材」として例示されている専門的・技術的分野の在留資格(「教授」、「芸術」、「宗教」、「報道」、「投資・経営」、「法律・会計業務」、「医療」、「研究」、「教育」、「技術」、「人文知識・国際業務」、「企業内転勤」、「技能」の 13 種)を有する者。
※2:『教育指数』・・・国際連合が発表。値が1に近づくほど教育水準が高いことを示す。成人の識字率と初等・中等・高等教育の総入学比を組み合わせて指標を算出している。
※3:『生徒の学習度到達調査』・・・OECDが発表。15歳児を対象とする学習到達度調査である。読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野について調査している。本項目では総合点数を記載。なお、本調査は調査対象国が限られているため、対象外の諸国は「n/a」と表示している。ただし、本文にも記載の通り、マレーシア・ベトナム等は2012年調査では調査対象国となっている。
※4:『高等教育(Tertiary Education)進学率』・・・国際連合が発表。人間開発報告書(Human Development Report)において提示している。
※5:『OECD諸国への海外留学生数』・・・OECDが発表。当該国からOECD諸国へ留学している学生数を示す。
※6:例えば、マレーシアにおける学生の大学授業料の負担額は、シンガポールに比べて1/4~1/7程度である。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。