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CSRを巡る動き:オリンピックとイベントの持続可能性

2012年09月01日 ESGリサーチセンター


 2012年7月28日、第30回夏季オリンピックがロンドンで開幕しました。各国の選手が様々な競技で競い合うスポーツの祭典・オリンピックには、毎回世界中の注目が集まります。特に今回のロンドン・オリンピックは、これまでイスラムの戒律に基づき男性選手しか出場させていなかったサウジアラビア、カタール、ブルネイが女性選手の派遣を決定するなど、社会の変化をみてとる上でも、興味深いものとなっています。中でも注目をすべきは、今回のロンドン・オリンピックを機に策定された認証規格「持続可能なイベント運営のためのマネジメントシステム」に基づく大会運営です。

 オリンピックは、スポーツの祭典であると同時に、サッカーのワールドカップと並ぶ世界最大規模の興行イベントとしての側面があります。今回のロンドン・オリンピックは、その経済効果が165億ポンド(約2兆680億円、英国ロイズ銀行グループ発表)と試算されており、莫大な規模の投資と、それによってもたらされるであろう興行収入、地域経済への波及効果を無視することはできません。オリンピックは、行政機関が行なう一種の投資プロジェクトであるとも言えるでしょう。
 投資プロジェクトとしてのオリンピックには、スタジアムの建設や公共交通機関の整備といった多くの建設事業、そして多くの観客を一箇所に集めて開催されるイベントの運営等が含まれます。投入される建築用資材や、イベント運営におけるエネルギーの消費による環境負荷は甚大な規模のものとなるでしょう。また、多くの集客が見込まれるイベントの会場等では、すべての人が楽しめる環境を整えるためにも、国籍・性別・障がいの有無等に対する社会的配慮も無視できません。今回のロンドン・オリンピックで採用された認証規格「ISO20121 持続可能なイベント運営のためのマネジメントシステム(2012年6月発行)」は、これらイベントを運営する上で重視すべき社会・環境への配慮を統合的にマネジメントすることを目的として作成されたものです。また、その策定においては、ロンドン・オリンピックの運営委員会とイギリス政府が主導的な役割を果たしており、彼らの持続可能性への意識の高さが表れていると感じられます。

 そもそも、今回のロンドン・オリンピックは「持続可能性」を主要テーマとして掲げており、特に気候変動・廃棄物・生物多様性・インクルージョン・健康な暮らしの5分野で様々な取組みを実施しています。そのマネジメントにおいては、大会を「準備段階(スタジアムなどの恒久的施設、及びインフラの設計と建設)」「開催段階」「レガシー(大会開催後の地域社会にもたらされる経済・社会・環境面の利益)」の3つの段階に分けられています。それぞれの段階で、行政によって実施される取組みをコミットメントとして表明するのと同時に、大会関連のイベントを企画する企業や、運営そのものに関与する企業に対しても「持続可能性を実現するための10個のアドバイス」として協力を要請しています。
 例えば、スタジアムでは、サッカーのウェンブリー競技場など、既存の施設をできる限り活用し、新設するのは大会後も長期的に利用することが可能と確認されたオリンピック競技上などの一部の施設に留まっています。
 また、大会の会場に向かう観客は、できる限り徒歩や自転車、公共交通機関で移動することが奨励されており、市内におけるレンタル自転車システムの整備や電車の臨時増発など細やかな配慮も推進されています。これらの取組みは、今後ISO20121の認証取得を目指すイベント運営機関にとって、一つの目安となっていくものと思われます。

 ロンドン・オリンピック後も、2014年には次なるビッグイベントとして、サッカーのワールドカップがブラジルで開催されます。この大会においても、同認証が適用されることは決定しており、今後ますます「イベントにおける持続可能性」という概念は定着していくことでしょう。オリンピックや、ワールドカップといった、従来の「人類の祭典」が、今後各国の持続可能性への取組みへの意識の高さをも競う「地球の祭典」になることが期待されます。
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