オピニオン
CSRを巡る動き:再生可能エネルギー買取制度を単なるカンフル剤で終わらせないために
2012年08月08日 ESGリサーチセンター
2012年7月1日、再生可能エネルギーの普及・拡大を目的とした再生可能エネルギー固定価格買取制度がスタートしました。適切に運用すれば、費用当たりの普及促進効果が最も高いといわれる制度の開始で、我が国においても、既に数多くの企業が再生可能エネルギー発電事業への参入を表明しています。
通称「フィードインタリフ(Feed-in Tariff)制度」と呼ばれるこの制度は、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなどの、いわゆる再生可能エネルギーによって発電された電力を、電気事業者に対し、政府が決める固定価格で一定期間買い取ることを義務づけるものです。買取価格は、再生可能エネルギーの普及を目的に、当初は高く設定しておき、その後の普及率や発電コストの推移を勘案して、定期的に逓減していく仕組みとなっています。企業は、事業参入時の価格を「固定価格」として買い取りに一定期間適用することができ、早く参入すればするほど、高値での売電が可能となります。高値で買い取らなければならない電気事業者は、追加負担費用を電気利用者から「賦課金」という形で広く徴収することで、企業の早期の事業参入を後押しつつ、買い取り側の負担軽減にも配慮した、ユニークな制度設計となっています。
これまで主要なエネルギー源とされてきた化石燃料は環境負荷が高く、それらを用いない再生可能エネルギー発電事業は、まさに「環境ビジネス」の雄として期待を集めています。環境問題は、一般的に受益者と、費用負担者が一致しない「外部不経済」と呼ばれる状態にあることが多く、一企業が単独で収益をあげる環境ビジネスのモデル構築は困難であるとされてきました。そこで、各国政府や国際機関は様々な法律や制度によって「環境ビジネスのための基盤整備」を進めており、フィードインタリフ制度もその先進的な試みの一つです。
しかしながら、これら政府・国際機関による後押しは、環境ビジネス普及の一方で、補助金の存在が公正な市場競争を歪めることになり、企業に本来期待されていた創造性が発揮されなくなる可能性を常に孕むものです。
特に今回の日本版買取制度では、太陽光による電力買い取り価格が42円/kWh(10kW以上の場合)・20年間保証、風力23.1円/kWh(20kW以上の場合)・20年保証と非常に高く設定されており、これではコスト低減のための企業努力が促進されない可能性も存在します。同制度をいち早く導入したスペインなどでは、高く設定しすぎた買い取り価格によって、太陽光発電への投資がバブル化、電力利用料金の大幅引き上げによる国民負担の増加・企業の国際競争力の喪失という問題も生じました。
行政が、政策によって市場をコントロールしようとする特定産業振興の取組みには、成功例と同じかそれ以上に、失敗例も存在します。特に環境ビジネスの分野では、これまでも温室効果ガスの排出権取引をはじめ、様々な経済的手法による取組みが導入されてはいるものの、いずれも成功を収めているとは言いがたい状況です。
一時的なブームを煽るだけではなく、企業の安定的なビジネスとして定着させるには、補助金等による誘導のみでは限界があるのは明らかです。新規で参入しようとする企業にとっての収益源を下支えしつつ、画期的な技術革新やコストダウンの工夫を活かす様々な規制緩和など、公平な競争環境の提供も重要です。幸いにも、先行事例は多く存在します。再生可能エネルギー買取制度による追い風を一過性ものとしないためにも、今後の日本政府の環境ビジネス推進政策に注目する必要があります。