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人が行動を変える

2012年02月29日 浅井康太


環境・エネルギーの仕事に携わって3年が経つ。この間、とりわけ低炭素交通分野では大きな変化があった。カーシェアリングの普及だ。カーシェアリングは、都心部を中心に10万人以上の会員を獲得し普及し始めている。率直に言えば3年前の私は、ここまでの広がりをイメージできていなかった。この規模の広がりは、一過性のブームではなく、まさに本格的な普及だろう。では、この急速な普及の要因はどこにあるのだろうろうか。私は、消費者のサービスに対する認識の変化による行動変容の結果だと考えている。

この3年間でカーシェアリングのサービスに大きな進歩があったわけではない。もちろん、多少は利便性も改善しているが、相変わらず乗り捨てができない。つまり、制約のあるサービスであり、消費者にとって必ずしも満足のいくものではない点は変わっていないのである。

しかし、カーシェアリングは、この3年の間に新聞や雑誌などのマスメディアに何回も取り上げられ、お得な利用方法を、環境に優しいという社会的な価値とともに紹介された。例えば、自動車を週に1、2回の送迎と週末の近所への買い物程度に利用をするならば、月1万円程度で済む。つまり、レンタカーを毎回借りたり、自家用車を所有したりするよりも利用コストを抑えられることへの理解が広がってきた。さらに各社が大々的にサービス展開したことで消費者の行動変容につながり、急速に普及したのだと考えられる。
このように金銭的メリットになる利用方法を消費者が正しく理解するようになったために、ステーションが少ないという多少の不便を感じていても、新しいサービスとして受け入れて使い始めているのだ。

つまり、消費者の不便が解消することはなくとも、新しいサービスとしてのメリットを正しく認識してもらうことで、消費者行動は変わるのだ。これから目指す低炭素交通を実現し、社会的に必要とされる行動へと導くためには、消費者(=ユーザー)に受け入れてもらうべき制約と感じるメリットのバランスをうまく設計することが求められるのだろう。

この設計が求められる次なるテーマとして、私が注目しているのはエコドライブだ。エコドライブは、発進時の加速をほんの少し抑えるなどの運転改善によって、燃料の消費量を大きく(状況によって異なるが、一例では10%程度)減らす取り組みだ。しかし、エコドライブを実践するには、定着した自身の運転方法を意識的に改善する必要があり、非常に手間が掛かる。そのため、現状のドライバーの自発的な取り組みに任せる方法では、燃料代削減というメリットだけでは、行動変容させる手間の大きさとはバランスしないのだ。だからこそ、普及に向けて行動させる手間を減らす仕組みと、他のメリット、つまりインセンティブが必要になるのだ。

この他のメリットは、エコドライブを実施するユーザーが社会的に良い取り組みをすることで褒められたいという欲求や、みんなで同じ目標に取り組むことによる「つながり」の欲求を満たすといったことが想定される。つまり、ユーザーにとってエコドライブを進めることで、これらの欲求を満たす仕組みをビジネスを通して提供することが必要になるのだろう。

現在、主な国内メーカーがCMでの認知拡大やイベントでの運転方法体験を行っており、また新車には運転支援装置を設定することで実施の手間を軽減する、二つの取り組みをしている。しかし、ユーザーにとってのさらなるメリットを提供する取り組みはされていない。それゆえ、エコドライブの実施がユーザーにとってメリットになるビジネスモデルを構築することが必要になるのだ。

低炭素交通分野の次なるテーマとして私が注目するエコドライブで、これまでの3年間の経験を活かして普及に向けた活動をスタートしたいと思うので、今後様々な観点で皆さんと議論できるチャンスを頂ければと思う。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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