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【ESG投資の注目点】社会貢献活動が企業価値を押し上げる
2011年10月01日 ESGリサーチセンター、小崎亜依子
社会貢献活動は、環境保全活動、労働者に配慮した活動などと比べると、一般的な投資家にとっては企業価値との関連性がイメージしにくい。実際、証券アナリスト協会が検定会員向けに実施したアンケート調査(注)でも、気候変動、顧客対応、役員報酬などの12のESG要因のうち、企業価値との関連性が最も薄いとされたのは社会貢献であった。しかし、場合によっては、社会貢献活動は企業のブランド価値向上や従業員のモチベーション向上などに資するケースもあり、企業価値との関連性は決して無視できないと考える。
社会貢献活動とは、社会が抱える社会的課題の解決に貢献する取組みのことを言う。災害からの復興支援、ガン患者の支援、途上国の衛生環境改善支援、肥満の改善支援、交通事故撲滅支援、デジタルデバイド解消支援など、企業が取り扱う社会的課題はかなり幅広い。
例えば、資生堂は、皮膚に疾患や傷跡を抱えた人々の傷跡を見えにくくし、生活の質を向上させるソーシャルビューティーケア活動を実施している。化粧品の製造販売を本業とする資生堂ならではの社会貢献活動で、これまで培ってきた化粧品開発技術を応用して独自の商品を展開している。数年前の株主総会では、株主から同社のこの活動を応援するようなコメントもあったという。また、こうしたメーキャップを施した後に、顧客から泣いて喜ばれたこともあり、従業員のモチベーション向上にもつながっているという。
また、マクドナルドは同社の各国の財団を通じて病気のため長期入院している子どもの家族のための宿泊施設であるドナルド・マクドナルド・ハウスを全世界に300以上も展開している。日本にある7施設は日本マクドナルドが中心になって設立した財団が運営。世田谷区の国立成育医療研究センター(小児を専門とした国立病院)などに併設されている。全国から難病の子どもたちが集まってくるものの、病院の家族用のベッドは小さく、長期間付き添うのに必ずしも十分とはいいがたい。そのため安価で宿泊できるドナルド・マクドナルド・ハウスは遠方から来る家族にとって、なくてはならない存在となっている。直接的な売上向上にはつながらないものの、こうした活動は社会から広く受け入れられ、同社のブランド価値に少なからず影響を与えるであろう。
社会貢献活動は、様々なパスを経て企業価値に影響を与える。上述のケースでは、ブランド価値向上、従業員のモチベーション向上、潜在顧客の開拓などがそのパスとして挙げられる。その他にも、途上国での工場に勤務する従業員への教育支援などは、生産効率向上につながるケースもあるし、社会貢献活動によって新規市場開拓の足がかりをつかむケースもある。
製品サービスの品質や価格の差別化が困難になってきている時代では、こうした社会貢献活動が差別化の1要素となりうる可能性は十分にある。一般的な投資家にとっては馴染みの薄い情報かもしれないが、既存市場や新規開拓市場において地域社会との良好な関係を築いているのか、従業員はモチベーションを長期的に保つことができているのか、潜在顧客を十分に開拓できているのか、などを知る手がかりとして、社会貢献活動の情報を利用されてみてはどうだろうか。
(注)日本証券アナリスト協会「企業価値分析におけるESG要因」(2010)
*この原稿は2011年9月に金融情報ベンダーのQUICKに配信したものです。