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【ESG投資の注目点】「三助の思想」と企業の防災対策

2011年08月01日 ESGリサーチセンター、藤崎博隆


自分のことは自分で守る「自助」。そして地域で助け合う「共助(互助)」。さらに行政がカバーする「公助(扶助)」――。江戸時代の米沢藩主上杉鷹山が唱えた、防災対策の「三助の思想」である。この「三助」がそれぞれ適切に発揮されれば、被害は最小限で済むというのはいまも真理であろう。東日本大震災後に注目された企業の事業継続計画(BCP)などは「自助」に当たる。ESG投資では、さらに「共助」で社会的責任を果たす企業に注目してみたい。

「共助」に取り組む際、「地域コミュニティの希薄化」という課題を出発点とすることが有効だ。平成17年に国土交通省が行ったアンケート調査では、地域コミュニティ衰退の原因として、少子高齢化や情報化進展の影響ばかりでなく、都市部、町村部ともに最も多い半数以上の人が「昼間に地域にいないことによるかかわりの希薄化」を指摘した。居住地と勤務地を同一にする自営業者や専業農家が減少したため、これまでの「共助」が成り立たなくなっているのである。「共助」の中核的な存在である消防団組織では、団員の減少が深刻な問題となっている。地域の防災力の低下を懸念する声も多い。しかし、大災害時には「公助」の対応にも限界があることから、地域の力は欠かすことができない。

そこで、地域防災力の向上のため、企業の貢献が大いに期待されている。企業の先進的な取組みの一つに、消防団への協力がある。総務省消防庁の「消防団協力事業所表示制度」は従業員の入団促進や勤務時間中の活動への配慮を行うなど企業の消防団への協力を評価しようというものであり、2010年4月時点で全国約5,300の事業所が認定されている。

また、災害時の円滑な応急対策を目的に自治体と企業が協力体制を構築する「災害協定」は、「公助」への支援といえる。インフラの復旧にかかる建設業者、緊急輸送にかかる運送業者、避難住民への食料・医薬品など物資の提供にかかる食品・医薬品・小売などの業者、帰宅困難者へのトイレや休憩場所の提供を行うコンビニや外食チェーンなど幅広い業者が自治体との協定を締結している。今回の震災後も新たな協定が締結されるなど、その企業数や業種は拡大傾向にある。

「共助」への取り組みは企業価値に直結しない場合もある。しかしESG投資の視点では、地域社会に根差した取り組みが必ず「自助」にも好影響を及ぼすことに注目したい。災害時の事業継続には、地域特有の災害リスクの想定や従業員の防災意識の醸成が不可欠だ。そうした要素は地域貢献への取り組みの中でこそ培われる。災害への備えは企業単独では決して成り立たない。災害に強い企業が、日頃から地域に優しいのは必然といえる。

*この原稿は2011年7月に金融情報ベンダーのQUICKに配信したものです。
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