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CSRを巡る動き:アメリカ「人身売買報告書」を読み解く

2011年09月01日 ESGリサーチセンター


6月27日、アメリカ国務省は世界各国における人身売買の実態をまとめた「2011年版人身売買報告書(Trafficking in Persons Report 2011)を発表しました。報告書は、各国別の状況を取組みが進展している順に「段階1(Tier 1)」、「段階2(Tier 2)」、「段階2において、特に監視対象となる国々(Tier2 Watch List)」、「段階3(Tier 3)」の計4段階に格付けしています。日本は、昨年に続き、「段階 2」に分類されています。一部の国内報道は、「段階2」の基準を「人身売買根絶の最低基準を満たさない国」を意味するものと紹介し、批判的に取上げている状況です。
このような報道に対する国内の反応としては、「人身売買」というショッキングな内容であるがゆえの過剰反応が目立ちますが、一般的には「自国の出来事として俄かには信じがたい」というものではないでしょうか。「国内問題」としての人身売買の現状を適切に理解するためには、この報告書をどのように読み解くのがよいのでしょうか。

人身売買報告書は、アメリカの国務省(日本の外務省に相当)が作成しているものであり、その内容は、同国における人身売買についての考え方に沿ったものです。上記の4段階における格付けも、アメリカ国内法である人身売買被害者保護法(TVPA)に準拠しています。参考までに、段階1、段階2のそれぞれの格付け基準の原文は以下の通りとなります。
段階1:Countries whose governments fully comply with TVPA's minimum standards (仮訳:政府が、TVPAの求める最低基準を完全に順守している国)
段階2: Countries whose governments do not fully comply with the TVPA's minimum standards, but are making significant efforts to bring themselves into compliance with those standards (仮訳:政府はTVPAの求める最低基準を完全には順守していないが、順守に向けた大きな努力をしている国)
それぞれの格付けにおいて、政府は遵守に向けた取組みを推進していますが、明確な相違点としては、アメリカ国内法であるTVPAの定める最低水準を満たしているかどうか、にあると言えます。自国の国内法に照らし合わせた最低基準を適用している以上、アメリカが「段階1」に格付けされるのは当然となります。日本を含むその他の国々においては、まずTVPAを基準とすることの妥当性から検証されるべきと言えるでしょう。

また、同報告書では各国の人身売買の現状についても概要がまとめられています。日本に関するものでは、国の定める「外国人研修・実習制度」を利用する中小企業において、人身売買への関与の可能性があるとの指摘に注目する必要があるでしょう。
日本における外国人研修生の受入れは、財団法人国際研修協力機構(JITCO)による国際協力事業として推進されています。1981年の在留資格創設以降、開発途上国に対する技術移転・国際交流といった側面で大きな成果を挙げているものですが、その一方で、近年は企業による外国人研修生に対する人権侵害の増加が社会問題となっていました。
その根底にあるのは、日本人労働者の確保が困難な業種の企業や、海外企業による安価な製品との競争にさらされている中小企業における、低賃金の労働力確保のニーズです。逼迫した企業の中には、外国人研修生の受入れを「過酷な労務環境で活用できる低賃金労働力の確保」とみなすものもあり、結果として不正労働行為を誘発してきたという経緯が存在します。法務省によると、研修受入れ機関による「不正行為」は、ピークとなる2008年には1602機関中452機関において認定されるまでになりました。
日本国内においては、過労死ですら珍しくないこともあり、これら外国人研修生の労働条件問題はそれほど大きく報道されませんでした。また、自己犠牲を美徳とする日本文化においては、権利の主張に対する共感が集まりにくいという背景もあるかもしれません。しかし、アメリカの人身売買報告書という異文化のフィルターを通した時、これらは「人身売買・人権侵害」問題という名で、日本社会へと大きく跳ね返ってくることとなりました。

昨年発行された、組織の社会的責任に関する規格「ISO26000」でもビジネスと人権は大きく取上げられており、企業としても対応が求められつつある状況です。しかし、人権はそれぞれの社会・文化に大きく依存する問題です。国際規範や他国の法規を参考にすることは重要ですが、その意味を咀嚼せず、そのまま適用するのは、決して適切なやり方とは言えません。日本社会、特に企業に求められるのは、幅広い利害関係者を巻き込んだ議論です。他国からの批判に一喜一憂することなく、「わが国、わが社において必要となる行動」を考えることこそが、国際社会で求められる「ビジネスと人権」への対応の第一歩であると言えるでしょう。
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