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失敗事例に学ぶ海外現地パートナー獲得の留意点

2011年12月26日 吉田賢哉


海外事業で現地パートナーを獲得するメリット
 中国や、ASEAN諸国、インドなどが、著しい経済成長を遂げている中、成熟した日本市場のみで活動することに限界を感じ、海外で何かしらの事業展開を検討する企業は少なくない。しかも、最近の円高傾向は、そのような検討の必要性を高めている。
 ここ数年、筆者は多くの企業の方々と、海外事業について様々な議論をする機会を得ている。議論の際、かなりの割合で現地パートナー獲得が話題となる。多くの企業にとって、海外事業で現地パートナーを獲得することは、重要な関心事の1つであると思われる。
一般に、現地パートナーを獲得することで、下記のようなメリットが得られる。

【現地パートナーを獲得するメリット】

・自社の投資額を抑えて失敗時のリスクを低減することができる
・現地の事情や各種規制などを十分に踏まえて事業展開することができる
・スピーディーな事業展開が可能になる
・地場企業とのコネクション(調達・販売先等)を確保することができる

 その一方で、「自社の得られる収益が減少する」、「自社のコントロールが利かない状況が起こり得る」、「技術やノウハウの流出の恐れがある」、などといったデメリットも存在する。
 現状では、デメリットがあるとはいえ、メリットを生かして海外事業の収益拡大を狙っていくことが魅力的な選択肢であると受け止められる傾向にあり、先に述べた現地パートナー獲得の関心の高さにつながっていると考えられる。

 しかし、実際に現地パートナーを獲得して海外事業を進めている企業において、前述のメリットを十分に得ることができていない状況が散見される。
 そこで、本稿では、海外現地パートナー獲得の失敗事例の考察を行って、失敗を回避してメリットを手にするための留意点について言及する。

現地パートナー獲得の失敗事例
 筆者が企業の方々と議論する中で良く出てくる話をまとめて、現地パートナー獲得における典型的な失敗事例を3つご紹介したい。

(1)部材の調達に失敗した例
 海外である部材を調達したいと思った日本のA社は、現地企業3社をパートナー候補として考えていた。各社のサンプル品を何度か確認し、さらに生産現場の確認も行って、調達先としてX社を選んだ。A社は、一度サンプルを確認しただけでは、その時に限って良い品が送られてくる危険性があると日本の同業他社から聞いていたため、慎重な手続きを踏んで、現地企業の技術力をしっかりと見極めることにした。
 結果的に、価格・品質面で納得のできる部材調達がX社からできるようになり、A社は良いパートナー企業を選択することができたと感じていた。
 しかし、1年ほどたち、A社の事業が本格化して部材の調達量を増やし始めると、X社からの納品が遅れ始める。X社が保有する設備は、A社からの需要に十分対応できる生産能力を有していたが、X社にはA社以外にも重要な取引先がおり、X社の経営者はA社以外を優先して設備を稼動するようになっていたため、納期に遅れが生じるようになってきたのである。
 A社は今後とも大量に調達する意思があることをX社に伝え、X社に設備の増強を提案する。X社はそれに応じて多少の設備増強をしてくれたが、納期は遅れがちなままであった。また、X社の優秀なワーカーは、A社以外の生産に重点的に配置されるようになり、A社向け部材は品質も徐々に悪くなってしまった。
 A社はX社に事態の改善を要求した。だが、X社の経営者は、中長期的にはA社向け以外の生産を事業の柱にするつもりであり、A社向けに経営資源をそれほど投下できないと回答してきた。既に事業が本格化していたA社にとって、X社に代わる部材の調達先を見つけることは容易ではなく、A社の海外事業の展開スピードは大幅にダウンすることになってしまった。
 最終的にはA社にとって満足度の低いパートナー獲得となってしまった。

(2)代理店を通じた製品の販売に失敗した例
 海外で自社製品の販売を考えていた日本のB社は、社長の知り合いの紹介で、現地で類似品の販売を長年手掛け、販売高もトップクラスの大手販売代理店Y社と接触した。Y社は日系の製品が高品質であることを以前より高く評価していたこともあって、B社とY社が交渉を始めると、話はとんとん拍子で進んだ。
 B社は、販売実績を重視してパートナーを選定したいと考えており、現地で評判のY社に任せておけば安心だと考えて、現地での販売を全面的にY社に委託することにした。
 しかし、Y社に任せるようになってから1年以上経過しても、なかなかB社の売り上げは拡大しない。そこで、B社が販売不振の原因について調査・分析を行ったところ、Y社の長年の販売実績は、ほとんどが廉価品を中心としたものであり、日本においても高級品であるB社の商品を欲しがる顧客へのパイプはほとんど持っていないことが明らかになった。つまり、B社の製品はY社の顧客には価格が高過ぎ、B社が狙うような顧客層にY社は強く無かったのである。
 最終的に、B社はY社への委託を中止して他の代理店を探すことになるが、一定期間はY社以外に委託できない契約を結んでいたため、B社はかなりの時間を無駄にしてしまうこととなった。

(3)「パートナー選定疲れ」を起こしてしまった例
 某国に進出した日本のC社は、独資で現地拠点を構築し、日本品質の製品・サービスを提供することで、着実に成果を上げ、現地に受け入れられるようになっていった。
 そろそろ現地拠点を増やそうかと考えていたC社は、ある日、現地の準大手企業から提携の申し出を受ける。それまで海外でパートナーを活用することをあまり考えていなかったC社は、慌てて申し出を受け入れるかどうかの検討を始めた。最終的にこの申し出は、受け入れる決め手に欠けるということで、見送られることとなった。
 その後、C社の現地での評判は次第に高まり、次々と提携の申し出が舞い込むようになった。C社はその都度、申し出の内容をしっかりと吟味していたが、どの提案も受け入れるには至らなかった。
 そのうち、C社は、提携の申し出を毎回検討することに時間を取られてしまい、各種業務が慌しくなってしまった。そして、忙しさから、提携の検討は徐々におざなりになってしまい、「パートナー選定疲れ」の状態に陥ってしまった。
 結局C社はどの現地企業もパートナーに選ぶことができず、細々と独自に拠点を増やす道を選ぶこととなった。C社は、初期の申し出を受け入れておけば良かったと反省するようになり、成長の機会を逸したと後悔している。

より良い現地パートナー獲得に向けた留意点
 ここまで紹介した失敗事例の分析を通じて、その回避策を検討すると、より良いパートナー獲得のための留意点を3つ挙げることができる。

(A)多角的な視点の導入 ~幅広い分析
 A社では、技術面でのチェックは念入りであったが、パートナー候補の戦略や経営者の意識を理解することは不十分であった。
 自社にとって重要なポイントに絞って情報収集することは、パートナー検討の効率を高めるという面では有効であるが、評価項目を絞りすぎると、本当は配慮しなければならない視点が抜け落ちてしまうことがある。
 少数の視点だけで分析・評価するのではなく、定量的な情報に加えて定性的な情報も考慮するなど、多角的な視点を導入して分析・評価することが、パートナー獲得を成功へと導く重要なポイントだと言える。

(B)良いパートナーの要件を定義 ~深い分析
 B社は、販売実績を重要な項目として着眼するに至ったが、販売実績とは具体的に何を指すのかについての考慮は十分ではなかった。B社はY社の販売実績を「トップクラスの販売高で、評判が良いらしい」という印象・雰囲気で判断してしまったため、高級品に関しての販売数量や顧客数、販売体制などについては十分に検討することはなかった。
 パートナー選定に適切な視点を用いていたとしても、自社のパートナー企業に期待する勘所を調べることが漏れてしまっては意味がない。
 自社にとって重要な要件は何かを十分に検討・定義し、その内容については深く掘り下げて、極力あいまいさを排除しながら確認していくことが、パートナー獲得を成功へと導く重要なポイントだと言える。
※ただし、今回のY社のような企業が、日系企業から高級品のラインナップを獲得して、従来の廉価品と合わせてより強力な販売網を構築することに成功する場合もあるため、顧客層が異なるパートナーとの連携は成功しにくいとは一概には言えない。

(C)候補評価の基準作り ~同時期・同項目で他社と比較できる分析
 C社は、提携の申し出をしっかりと分析していたが、申し出を個別に扱っていたため、ある申し出が、他の申し出と比べて「相対的」に良いのか悪いのかを判断することが難しかった。もしC社が、複数の申し出を同時に、同じ項目を用いて横並びで比較することができれば、それぞれの申し出の特徴がより明らかになり、どの申し出が良いかを順位付けして、適切なパートナーを選択することができたかもしれない。
 また、B社のケースでは、知り合いの紹介を受けたY社のみを提携候補とするのではなく、複数社を候補としていたならば、他社との比較を通じてY社が高級品を得意としていないことに気付くことができたかもしれない。
 つまり、ある程度の社数を同時期に同項目で調べて、分析・評価をすることができれば、「パートナー候補が現地企業の中で、どの点で優れどの点で劣っているのか」(現地の水準)を判断することができるようになる。
 そのため、時間のかかる無駄な作業のように思えても、本命のパートナー候補以外の企業も同時期に同項目で調べることが、パートナー獲得を成功へと導く重要なポイントだと言える。

おわりに
 本稿で述べた3つの留意点に配慮して、現地パートナー獲得を『幅広い分析』、『深い分析』、『同時期・同項目で他社と比較できる分析』で進めていくことは、時間もコストもかかるため、容易なことではない。しかし、パートナー獲得の失敗を回避し、メリットを手に入れるためには、多少の先行投資も必要である。
 そこで、最後に、4つ目の留意点として、『パートナー獲得前には、分析に一定程度の時間とコストをかけるべきである』ということを申し上げておきたい。

 これらの留意点が、パートナー獲得によるメリットを活かして海外事業における収益の拡大を狙っていきたいと考えている貴社の一助となれば幸いである。

【より良い海外現地パートナー獲得のための留意点】

(A)多角的な視点の導入 ~『幅広い分析』を実施
(B)良いパートナーの要件を定義 ~『深い分析』を実施
(C)候補評価の基準作り ~『同時期・同項目で他社と比較できる分析』を実施
(D)上記(A)(B)(C)のために一定程度の時間とコストをかける



※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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