オピニオン
CSRを巡る動き:日本版環境金融行動原則の向かう道
2011年11月01日 ESGリサーチセンター
10月4日、国内の30以上の金融機関でつくる日本版環境金融行動原則起草委員会は、「持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則(21世紀金融行動原則)」を採択しました。これは、環境に配慮した金融活動を進める際に重視する7つの原則を示したものであり、今後、国内の金融機関に対して、原則への署名が求めていくことになります。
金融機関に対しては、経済活動におけるその存在の重要性から、これまでもUNEP FI(国連環境計画金融イニシアティブ)やPRI(国連責任投資原則)をはじめとする、国際的なイニシアティブへの賛同が求められてきました。本原則は、わが国の金融機関に対し、新たなコミットメントを求めることになるのでしょうか。原則としての狙い、そしてその他の国際イニシアティブとの関係性について、紐解いてみます。
この金融行動原則は、「基本原則」と「業務別ガイドライン」で構成されています。「基本原則」は署名金融機関等が賛同する内容であり、「業務別ガイドライン」はその「基本原則」を具体的にどのように実践するのかを「預金・貸出・リース業務」、「運用・証券・投資銀行業務」、「保険業務」に分けて示したものです。ガイドラインは、署名の対象に含まれません。
署名の対象となる7つの基本原則は、企業活動における「持続可能な社会への寄与」を目的としており、それを実現するアプローチとして「金融商品・サービスの開発・提供」や「ステークホルダーとの連携促進」、「自社の役職員の意識向上」といった様々な側面からの活動を促進するよう謳っています。単に、販売する製品やサービスが社会に与える影響についてのコミットメントだけではなく、そのビジネスを支える社内の活動全般と、そこで動く社員それぞれの意識改革も含めた、企業そのものにおける包括的なコミットメントを求めた内容であると言えるでしょう。
また、本原則は、日本の金融機関の実情に合わせた取組みの推進、特に小規模な地域金融機関等にとっての環境金融の取組み推進の足がかりとなるものと期待されています。つまり本原則は、UNEP FIやPRIといった国際的なイニシアティブと、基本的な理念を共有しつつ、そこへの道筋を指し示す道しるべとしての役割が求められているものと考えられます。本原則の起草委員会には多種多様な金融機関が委員、ワーキンググループメンバーとして参加していますが、中には多くの地方銀行も含まれています。基本原則におけるこれらの特徴は、多様な金融機関による、活発な意見交換の結果が反映されたものと言えるのではないでしょうか。
一方で、この包括的な内容を含んだ基本原則について、その実効性を担保することの難しさを指摘する声も一部で存在することも事実です。特に、取組むべきとされる原則の内容が、単なる環境保全活動を超えた、より高位な概念である「サステナビリティ(社会の持続可能性)」を目指したものとなっていることは賛否両論あるようです。
確かに、起草委員会の名前が「日本版環境金融行動原則起草委員会」となっていることからもわかるように、もともと本原則は「環境金融」の普及を目指して動き出したものです。ただ、世の中では既に、「環境」と「社会」は個別に論じることができるものではないとの考え方が主流になりつつあります。また、一般企業においてもESG(環境・社会・企業統治)を踏まえた「サステナビリティ」をCSRの軸とするケースが増えています。今回の行動原則が最終的に「持続可能な社会の形成に向けた」金融行動原則となったのは、これらの潮流を踏まえた決定であったものと思われます。「サステナビリティ」を目指した理念の追求と、日本社会の実情に合わせた実効性の確保の狭間で、日本の新たな金融行動原則は慎重な第一歩を踏み出したと評価してよいでしょう。