オピニオン
住民目線のエコシティ開発を
2011年11月01日 赤石和幸
中国をはじめとした世界各地でエコシティ開発が進んでいます。しかし、日本の報道だけを見ると、スマートグリッド、VTG(Vehicle To Grid)、EV急速充電など、やや技術論に偏る傾向にあるように思えます。確かに、まっさらな土地に新たな都市を描くことができるため、日本では実現できないインフラ整備が期待できます。さらに多くの地域では、積極的な目標値(KPI: Key Performance Indicator)が設定され、その実現に向けて日本の先端的な技術の導入が期待されているのも事実です。ただ、エコシティの現場で聞こえる声は、“住民にエコ意識を根付かせるには”、“住民の負担を増やさずにKPIを達成するためには”といったものです。
エコシティの発祥は、北欧でスローライフを実現する環境配慮型の都市づくりといわれています。その代表的なものが、スウェーデンのストックホルム郊外にある、「ハンマビー・ショースタッド」と言われています。1万人程度の小さなエコシティですが、この地域の住宅では環境配慮型のライフスタイルを実現するための様々な工夫がなされています。屋上には太陽光パネルが付設され、水は循環利用されるほか、下水や生ごみは近隣の下水処理場でバイオガスとして回収され、この地域の燃料として再利用されています。路面電車(LRT)が都市を貫通し、徒歩もしくは自転車で駅までアクセスできるような設計がなされ、住民に負担無くグリーン交通を選択できるようなライフスタイルが提供されています。こうしたこともあってか、不動産価格はストックホルムと同程度かそれ以上にもかかわらず、新しいライフスタイルを求めて、既にほとんどの住居が完売しているそうです。
このハンマビーの都市開発をもって、エコシティは「都市開発の基礎インフラを環境配慮型にすることで、都市に付加価値を与え、より高い次元でのライフスタイルを提供すること」と定義され、それがハンマビーモデルとして全世界に伝わることになりました。当社でも、天津エコシティ開発に関わっていますが、やはり第一に、都市に整備される基礎インフラが住民に負担なく受け入れられること、第二に、先端的で格好良いライフスタイルを提供できることが重要です。環境性や利便性におけるKPIを達成させるばかりでなく、経済性や受け入れやすさといった住民目線も含めて複雑な課題を解決する技術こそ、エコシティで求められるものなのだと思います。
※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。