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Business & Economic Review 2011年10月号

【特集 世界の金融の新しい潮流】
世界金融危機後の国際資金フローの動向と展望-アメリカ・アジア新興国間の不均衡を中心に

2011年09月26日 坂本達夫


要約

  1. 世界的な金融危機を契機として本国回帰(リパトリエーション)の動きが強まった国際資金フローは、世界経済の持ち直しやグローバルな投資家のリスク選好の回復を背景に、再び拡大傾向にあり、2010年にはピーク時の5割程度まで回復した。


  2. 欧州の資金仲介拠点としての機能が回復しないなか、世界の対内・対外投資に占めるアメリカの割合が大きくなっており、アジアの新興国との結び付きを強めている。金融緩和を背景にアメリカから資金が高収益を求めてアジアへ流入する一方、アジアから米国債へ投資されるという構図は当面続く公算が大きい。この資金の流れが強まれば、アメリカの経常赤字のファイナンスの持続可能性、新興国におけるインフレ、資産価格の高騰といった懸念が高まる可能性がある。さらに進んで持続困難な状況になれば、資金の逆流などを通じて再び国際金融に混乱が生じる可能性もある。


  3. 米大手格付け機関により米国債の格付けが史上初めて引き下げられたものの、米国債はなお運用先として世界で最も安全で流動性のある投資対象であり、急激なドル離れが進行する公算は小さいと考えられる。一定の条件の基で試算すると、アメリカ10年債利回りは海外からの1,000億ドルの米国債投資により1%強押し下げられるため、アメリカ財政への信頼維持がアメリカの金利を大きく左右する可能性がある。したがって、アメリカは財政再建を確実に果たす努力を続けることが必要であろう。


  4. 一方で、アジアの一部の都市では、不動産価格の過熱感が強まっている。不動産価格の上昇がファンダメンタルズを反映したものではなければ、先行き海外投資家による資金の引揚げを通じて、資産価格や通貨が急落するリスクがある。


  5. グローバル・インバランスの解消に向けて国際的な議論が行われてはいるものの、金融危機後も貯蓄投資バランスを背景としたアメリカの経常赤字、アジアの新興国の経常黒字という構造に変化はなく、引き続き世界経済にとって注視すべき問題となろう。


  6. 国際資金フローの拡大を世界経済の安定成長につなげるためには、急激な国際資金移動への対処やグローバル・インバランスの是正、金融規制の改革など、多方面から国際資金フローにかかわる不安定要因を取り除く必要がある。こうした問題は一国だけで対処できるものではなく、G20など国際議論の場において協調体制を強化することが重要であろう。
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