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アジア・マンスリー 2011年9月号

【トピックス】
活発化する韓国企業のインドネシア投資

2011年09月01日 向山英彦


近年、韓国企業の対インドネシア事業が活発化している。政治情勢の安定化に加えて、成長の持続により中間層が増加し、市場の魅力が増したことがその背景にある。

■増加傾向にある対インドネシア投資
韓国企業は2000年代に入り、輸出や現地生産を通じてグローバルな事業展開を加速させた。とくに需要が拡大する新興市場に対する取り組みを強化した。輸出先をみると、90年代以降先進国向けのシェアが低下し、中国を中心としたアジア向けが上昇し、近年ではアジア以外の新興国向けも伸びている。また対外直接投資では中国と米国が主要な投資先であるが、旧東欧諸国、ブラジル、ベトナム、インドネシアなどの新興国が上位に顔をのぞかせている。
国内市場が小さい(GDPは日本の約1/5)上、急速な少子高齢化により先細りが予想されるため、企業の成長にとって新興市場の開拓は不可欠となる。これが、日本に先行してグローバル化を進めた最大の理由である。
韓国企業による新興国市場の開拓が積極化するなかで、近年インドネシアへの投資が着実に増加している。韓国輸出入銀行の統計によれば、インドネシアへの直接投資額は2009年の3.3億ドルから2010年に8.7億ドルへ増加し、インドネシアは韓国の投資先として8番目となり、ベトナムを上回った(右上表)。他方、インドネシア投資調整庁の統計では、2010年に韓国はインドネシアにとって9番目、2011年1~6月期は5番目の投資国となっている。
興味深いことに、インドネシアに対する関心は日本企業の間でも高まっている。国際協力銀行が毎年実施している『わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告』によれば、中期的(今後3年程度)な有望事業展開先として、インドネシアは2009年の8位(得票率10.8%)から2010年に6位(20.7%)へ上昇した。

■安定成長が続くなかで市場の魅力が高まる
インドネシアに対する関心が高まった要因として、スハルト政権崩壊後にみられた政治の不安定さがなくなったことに加えて、以下の3点が指摘できる。
第1に、成長の持続により、人口2億3,000万人 の市場としての魅力が増したことである。多くのアジア諸国が世界金融危機の影響により減速した2009年も実質GDP成長率は4.5%となった。マレーシアやタイと比較して、輸出依存度(輸出額/GDP)が低く、内需が安定的に伸びていることが世界経済変動の影響を受けにくくしている。2010年1~3月期以降、5~6%台の成長が続いており(右上図)、2010年には1人当たりの名目GDPが3,000ドルを超えた。「中間層」が増加したほか、消費者金融の発達とインフレ抑制(インフレが悪化した2008年との比較)を受けての金利水準の低下により、消費が拡大している。
第2は、生産拠点として見直されたことである。近年、中国沿海部やベトナムにおける賃金上昇と人手不足などを背景に、履物や衣服などの労働集約産業ではインドネシアへ生産拠点を移す動きがみられる。
第3は、一次産品価格の上昇が農村部の所得増加につながっていることである。インドネシアは原油に関しては純輸入国に転じているが、それ以外の主力輸出品である天然ガス、天然ゴム、石炭、パームオイルなどの価格上昇が所得の増加に寄与し、これにより農村部の購買力が上昇している。従来の都市部に加えて農村部の購買力が上昇したため、自動車や携帯電話などの販売が急拡大しており、2010年の自動車販売台数は前年比57%増の76.4万台となった。また、外資系および地場企業によるコンビニエンスストアーの出店が相次いでいる。
最近の韓国企業の動きをみると、拡大する現地の需要を取り込む事業展開が目立つ。自動車市場では韓国車の存在が薄いのに対して、家電市場ではLG電子、サムスン電子が「手頃な」価格、現地ニーズに合った製品、豊富な品揃え、積極的な広告宣伝を通じたブランドの浸透を武器にシェアの上位を占めている。
最近、積極的に事業展開しているのはロッテグループである。インドネシアに総合スーパー(オランダ系スーパーを買収)と会員制卸売店を持つ同グループは、ロッテデパート1号店を2012年に開設する計画である。このほか、グループ企業の湖南石油化学が石油化学分野への進出を計画している。
家電・自動車市場の拡大を受けて、POSCOはインドネシア国営の鉄鋼会社クラカタウスチールと一貫製鉄所の建設に乗り出した。POSCOはインドでも一貫製鉄所の建設を計画しており、アジア地域で主導権を握ることになる。このほか、銀行や証券会社でもインドネシアへの進出を検討する動きが報じられている。

■韓国政府も経済協力に積極的
インドネシアが持続的成長を遂げる上でネックになっているのがインフラ整備の遅れである。政府は民間資本を活用しながら、鉄道・道路などの交通網、電力やエネルギーの開発を進めるほか、土地収用制度を整備していく予定である。
韓国政府もインドネシア政府との関係を強化している。2010年12月に李明博大統領がインドネシアを訪問した際、ユドヨノ大統領は同国の経済開発計画のメインパートナーとして韓国が参加することを要請した。また、最近では包括的経済連携協定の締結を検討し始めている。韓国政府は経済協力を通じてインドネシアの経済発展を支援していくほか、プロジェクトの受注獲得に向けた官民一体の取り組みを強化する方針である。すでにバイオマス発電事業分野では投資契約が締結された。
新興国の需要取り込みをめざす日本企業にとって、韓国企業の動向に十分な注意が必要である。
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