Business & Economic Review 2011年9月号
需要家主導の次世代エネルギーシステム-DEmand Side Driven Energy System
2011年08月25日 井熊均
要約
- 東日本大震災による電源喪失と東京電力福島第一原子力発電の事故により、日本は次世代に向けてどのようなエネルギーシステムを構築するかが問われている。
- エネルギーシステムの論点は詰まるところ、エネルギー供給システムに関する技術的リスク、資源調達リスク、地球温暖化リスク、にどのように対処するかに集約される。日本のエネルギー政策は、三つのリスクに関するバランスを欠いた。今般の電力不足は技術リスクに関する過信に起因する面がある。
- 次世代のエネルギーシステムを検討するには五つの基本理念を念頭に置くことが必要である。すなわち、多様性、持続性、効率性、透明性、自律性である。基本理念に加え、今回の震災で加味しなくてはいけないのは、原発事故に伴う電源の減少への対処、電源立地による負担の偏りの是正、である。
- 以上の観点から重要になるのが分散型エネルギーシステムである。これまでの大型発電所の発電効率の高さとエネルギーシステムとしての管理の容易さから大規模集中型エネルギーシステムが中心となってきた。
- 大規模集中型は燃料の利用効率の低さ、送電ロスの存在、送電線網にかかわる多額のコストと要地、広範なリスクの影響範囲、NMIBY(Not In My Back Yard)の助長、再生可能エネルギーへの適用の制約、といった課題がある。
- 2000年代初頭に、分散型エネルギーが提唱されたが、技術が十分に発達していなかったこと、大規模集中型エネルギーシステムの基準で評価されたこと、再生可能エネルギーの利用方法が体系化されていなかったこと、から十分に普及しなかった。
- 再生可能エネルギーについては、供給ポテンシャル、安定性、コストについて課題があるとされるが、誤解も多く含む。
- 本稿では、次世代エネルギーシステムの基本理念として「需要家主導のエネルギーシステム(DEmand Side Driven Energy Management System(DES2))を提案する。即ち、エネルギーシステムを需給双方から見た特性により、需要家レベル、コミュニティレベル、ナショナルレベルに分け、各々の位置付けに沿った需給システムを整備する。
- DES2においては、需要家レベル、コミュニティレベルについて、できる限り自律性の高いシステムの整備を目指す。そのうえで、「需要家をコミュニティが支え、コミュニティを国が支える」ことを基本的な理念とする。
- DES2は、2025年までを基盤構築段階、2040年までをネットワーク構築段階、2050年までをグレードアップ段階と位置付けてロードマップを作成し、整備を図る。
- 次世代エネルギーシステムの検討に当たっては、いかに活力ある市場を生み出すか、が重要である。日本では1995年から電力自由化政策が進められてきたが、活力のある市場の創出はできていない。
- 市場創出においては、需要家レベルを重視することが必要である。ナショナルレベルは市場の寡占性から突出して成長は難しい、コミュニティレベルではスマートシティ等の市場が対象となるが国内に開発機会を持たない日本は厳しい状況にある、からである。需要家レベルの市場は、日本の強みを活かせるうえ、競争力のある多くの企業の参加が期待できる。
- DES2の普及とそれに伴う市場創出には電力自由化の加速、再生エネルギー導入政策の抜本的な強化、エネルギーにかかわる徹底して規制緩和が必要である。
- 次世代エネルギーシステムの構築においては、需給双方を睨んだ取り組みが必要であること、再生可能エネルギーは地域の事情に即した開発が必要であることから、地域が主体的に検討するべきである。
- 次世代エネルギーシステムにおいても、電力会社のかかわりは期待される。一つは、ナショナルレベルにおける送配電の運営、発電の運営においてだが、需要家レベル、コミュニティレベルにおいても前向きなかかわりが期待される。