Business & Economic Review 2011年9月号
【特集 社会保障・税一体改革】
共通番号制度導入への道筋-スウェーデンの実例に学ぶ利便性の高い番号利用を
2011年08月25日 湯元健治
要約
- 政府は、2011年6月30日、「社会保障・税番号大綱」を決定した。番号制度の導入を巡っては古くから納税者番号制度の導入の必要性が指摘されてきたが、国家による個人情報の一元管理、プライバシー侵害の懸念などから挫折した経緯がある。今回、民主党政権の下で、税分野のみならず社会保障分野も合わせて導入に向けた具体的方策、ステップが示された意義は大きい。
- 大綱では、共通番号を、①社会保障を受ける権利を守る、②社会保障・税制面での適切な政策遂行、③効率的な社会保障給付、④利便性の高い行政サービス提供、⑤災害時でも安心できる社会保障サービスの提供など不可欠の社会インフラと位置付け、番号利用を当面は年金、医療、介護、福祉、労働、税務の6分野に限定して利用する一方、一般行政サービス、民間サービスについては「将来的な活用」に止めている。
- また、番号制度の基本的仕組みとして、①悉皆性など五つの特性を持つ番号を付番、②行政機関間の情報連携、③公的個人認証など本人確認の仕組みが必要とした。個人情報保護については、法制面から内閣総理大臣の下に委員会を設置、国民が自己情報をコントロールできる仕組み、法令による情報連携機関の範囲銘記、罰則規定の強化を行うとしているが、具体策は今後の検討に委ねられている。
- スウェーデンは、電子政府においても世界トップクラスで、番号の利用範囲も導入国中最も幅広い。スウェーデンの個人番号は国税庁が所管する住民登録番号を利用しており、国民IDカードの導入によって様々な行政サービスがWeb上でも提供される。代表的な事例を上げると、税務面ではプレプリントによる確定申告、公的・企業・個人年金の予想給付額をWeb上で閲覧できる官民共同サイト、住所変更があらゆる行政機関・民間金融機関などにワンストップでできるWebサイト、など効率的かつ利便性の高い行政サービスが提供されている。
- このようなサービスが可能なのは、行政機関間の幅広い情報連携があるからである。また、民間に対して、個人の姓名、住所情報を提供する公的機関が存在する他、幅広い分野での統計利用も進んでいる。個人情報保護は、中立かつ独立性の高いデータ検査委員会や個人データ保護法による厳格な保護措置があるが、必要な個人情報の提供は国民の義務であり、プライバシー情報とは峻別されているというスウェーデン人のプライバシー感も重要な役割を果たしている。
- スウェーデンの実例を踏まえると、わが国としては、①第三者委員会を国家行政組織法上の3条機関とするなど強力な権限を付与するとともに、現行の個人情報保護法を自己情報コントロール権を含めたプライバシー保護法として再構築すべきである、②一般行政分野や民間利用に関しては、「できるだけ早期に」利用範囲を広げるべきであり、そのためには、国民の自己選択も現実的な手法である、③番号制度や国民IDカードの導入は、社会保障・税の一体改革と同時並行的に進める必要があり、その前提として、徴税の効率化の観点から、国税庁による税・社会保険料の徴収体制の一元化への改革も真剣に検討すべきである。