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インド住宅市場の最新動向

2011年06月13日 田中靖記


インド住宅・都市貧困緩和省(Ministry of Housing and Urban Poverty Alleviation)の発表によると、2008年時点で30%であった人口の都市部居住比率は、2030年には41%にまで増加する。2030年の総人口が約14.1億人と予測されているため、都市部における居住者数は約5.78億人、2008年時点から1.7倍に増加する見込みである。
 
かかる都市部への人口流入増加をうけて、都市部の住宅に関わる3つの価格が上昇している。1つは、住宅建設に必要な『土地価格』の上昇である。都市部の主要な開発用地は政府系機関や民間企業が取得しているか、投資家のキャピタルゲイン目的の保有が続いている。また、デリー市では、土地取引の最低価格(*1)が今月初旬に改定されている。改定後の最低取引価格はおおむね従前の2倍の水準に再設定されており、市価相場が上昇していることが読み取れる(デリー周辺のハリヤナ州、ウッタル・プラデーシュ州でも同様の傾向がある)。

同時に、『住宅建設コスト』も上昇している。砂や煉瓦などの原材料価格は、2010年8月以降半年間で約2倍に増加した。さらにセメント・鉄鋼価格も上昇しており、例えば、セメントの価格は同期間で1.7倍になっている。住宅建設プロジェクトにおいて、原材料費の比率は総コストの約3/4を占めており、原材料費の高騰は総建設コストの増加に直結する。大手建設事業者を中心に代替原材料への転換が進む一方で、原材料高騰の影響が大きい中小事業者の原材料変更は進んでおらず、各社の収益構造を悪化させている(*2)。

結果として、『住宅価格』そのものの上昇が顕著である。公式統計は限定的(*3)であるが、2001年から2007年までにデリー・バンガロール・ムンバイ等主要都市の住宅価格は2~3倍程度上昇しており、2010年にはさらに数倍から数十倍の価格に達したエリアも存在する。2001年から2009年までの消費者物価上昇率は163%であるため、物価上昇以上に住宅価格が大幅に上昇していることが分かる。

都市部への人口流入が継続する限り、これら住宅関連価格の上昇は続く可能性が高い。
インドの不動産開発業者各社は、富裕層向けの高付加価値住宅の開発を進めて利益率の向上を狙うとともに、既存住宅から徴収しているメンテナンスフィー(*4)を増額し、収益力の改善を図っている。

一方で、インド政府は貧困層向けの住宅建設プロジェクトを継続的に実施している。2011年2月のデリー市政府住宅局の発表によれば、今後2年間にデリー市内において、184.7億ルピーを投じて35,000戸の住宅を建設する計画である。1戸あたりの建設コストは約53万ルピーであり、低コストでの住宅供給を志向していることが分かる。

消費者物価指数の上昇以上に住宅価格の上昇が進んでいる現状を踏まえれば、中間層の住宅取得が困難になる可能性は否定できない。今後は、貧困層向けの住宅建設とともに、中間層向けの適切な価格での住宅供給をどのように担保していくかが、政府の役割として問われることになるだろう。同時に、民間事業者にとっては、中間所得層向け住宅の低コスト・大量供給が求められる。

※住宅市場の動向については、関連リンク先「インド住宅市場への参入検討の方向性(前編)(後編)」も参照のこと。

  • (*1)「サークルレート」と呼ばれる土地取引の最低価格が定められている。デリー市では、2007年に導入された。市内の居住区域を8つに分割(2011年2月以降は10区分)し、それぞれに価格が定められている。

  • (*2)政府は中小事業者に対して、Aerocon blockなどの低価格かつ環境にやさしい代替材料への転換を支援する方針を打ち出している。

  • (*3)インド準備銀行の研究会は、不動産の販売価格と賃貸料についての指標の作成を提唱しており、現在指標の作成が進められている。不動産価格の動向を今後の金融政策運営に活かす狙いがある。

  • (*4)大手不動産会社DFLは翌4月以降、グルガオン市内の住居にかかるメンテナンスフィーを1平方ヤードあたり1ルピーから2.50ルピーに増額することを発表した。



※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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