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Business & Economic Review 2011年6月号

なぜわが国企業は潤沢な現金保有を維持しているのか?-予備的動機と経常利益変動性との関係性分析

2011年05月25日 新美一正


要約

  1. 1990年代半ば以降のわが国企業金融市場の著しい特徴の一つは、継続的な企業の負債圧縮行動である。ただし、旧稿(新美[2011][14])で指摘したように、この間のわが国企業行動においては、負債依存度の低下と同時進行の形で、潤沢な手元資金(現金+短期所有有価証券)を維持する傾向が目立っている点を忘れてはならない。


  2. なぜ、わが国企業は、ここ十数年にわたり、高水準の手元資金維持に注力してきたのであろうか。本稿では、現金保有と内部資金との関係性に注目し、実際の財務データを用いて、実証的に検討した。仮説としては、企業が将来時点において、有望な投資プロジェクトを実施するにあたって、外部ファイナンスを必要とするという意味で資金不足状態に陥る可能性が高まると予想する場合に、これに対する予備的な動機(precautionary motive)から、現金保有額を増やす、というものを設定した。


  3. さらに、企業がいわゆる金融制約(financial constraints)状態にある場合に、現金保有行動にどのような変化が生じるかに関しても、理論・実証の双方から検討を行った。一般に、金融制約状態にある企業においては、予備的動機に基づく現金保有額の調整は、相対的に緩慢なものになると考えられる。金融制約企業においては、現金保有コストが高いために、利益変動性の変化に対応して、機動的に現金保有水準をコントロールすることが困難になるからである。


  4. 本稿で行った実証分析結果は、おおむね、以下の3点に集約できる。
    (1)経常利益の変動性は、業種平均レベルにおいて、企業の現金保有高に有意に正の影響を与えていた。これは、予備的動機に基づく現金保有仮説と整合的な結果である。また、個社別の利益変動性レベルも、現金保有に対して追加的な正の影響力を持っていた。
    (2)金融制約の影響性から遠い企業群の現金保有額は、金融制約の影響が深刻な企業群と比較して、若干ながら、減少する傾向がみられた。このことは、現実の金融制約企業においては、流動性制約による手元資金の取崩しよりも、利益の内部留保による手元資金積み増しの影響の方が、相対的に強く表れていることを示している。
    (3)金融制約状態にある企業群は、個社レベルの経常利益変動性の変化に対して、金融制約から遠い企業群との比較で、明らかに非感応的となっていることが確認された。
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