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Business & Economic Review 2011年6月号

利益の「平均回帰」とP/E乗数法による企業価値評価-3月期決算企業データを用いた実証分析

2011年05月25日 新美一正


要約

  1. 企業価値評価において、もっとも一般的に用いられているエンタープライズDCF法は、株主に配分されるフリー・キャッシュフロー流列の予想値を、適当なリスク調整済み割引率(資本コスト)で割り引いて算出される。しかし、業績変動の激しい市況産業などにおいて、10~15年の期間にわたり、信頼性の高いキャッシュフロー予想値を得ることは、実務的には極めて困難である。


  2. 上記ケースにおいて、DCF法の代替的手段としてしばしば使用されるのが、マーケット・アプローチ、あるいは乗数法と呼ばれる手法である。これは、資本市場が効率的であることを前提にして、将来キャッシュフロー流列の予想を市場にゆだねる考え方である。乗数法のなかで、もっとも一般的に用いられるのは、株価と1株当たり当期純利益との比で定義されるP/Eレシオ(あるいはその逆数であるE/Pレシオ)である。


  3. Bajaj, Denis and Sarin[2004][1]は、P/Eレシオに基づく乗数法を使用して、企業価値額の推定を行う場合、利益の恒久性を考慮に入れた修正が必要であることを簡単な数値例を使って示した。具体的には、企業の利益変化には一時的な要素が多く含まれ、その結果、中長期的に見れば、利益には平均に回帰する傾向が見られる。したがって、業種内における利益変動が相対的に上位にある企業群と下位にある企業群とでは、企業評価に用いるべき適切な乗数水準が異なることになる。


  4. 本稿では、このBajaj, Denis and Sarin[2004][1]に触発される形で、国内上場企業(3月決算)の財務・株価データを用い、以下の二つの仮説の検証作業を行った。
    (1)仮説1:(業種の代表的水準との差で定義される)業種調整済み利益は、平均回帰する。すなわち、正(負)の利益変動に続いて、負(正)の変化が発生する。
    (2)仮説2:業種調整済み利益変動が一時的なものである場合(すなわち、仮説1が受容された場合)、業種調整済みE/Pレシオは、業種調整済み利益変動と正の相関を持つ。
    実証結果は、おおむね、これら二つの仮説の成立を支持するものであった。具体的なケースで言い換えれば、業種水準を上回る(下回る)利益変動が生じた場合、アナリストはP/E乗数による評価に際して、乗数の大きさを業種水準よりも低め(高め)に調整することが適切である、というものである。こうした修正を施すことにより、アナリストは利益変動における一時的要素の存在を、乗数法による企業価値評価に正しく反映することが可能になる。
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