Business & Economic Review 2011年6月号
市町村財政のリスク要因となる介護保険
2011年05月25日 横田朝行
要約
- 人口高齢化に伴い介護保険財政の先行きが懸念されている。とりわけ介護保険の事業者(保険者)である市町村の財政は今後とも様々な問題に直面すると予想される。
- 一般会計から介護保険事業会計に繰出される市町村負担分(12.5%)の合計は、関西では、介護保険が始まった2000年度の622億円から2008年度には1,317億円へ2.1倍に著増した。将来推計人口に基づき今後の負担額を試算すると、2025年度までに年平均3.9%(2009~2015年度)から2.3%(2021~2025年度)の増加が続き、2025年度には2,150億円に達する。その後ほぼ横這いとなり、2030年度に2,187億円(2008年度の1.7倍)でピークとなる。
- 個別市町村ごとの状況は区々である。介護保険への支出増加は、財政状況が厳しい自治体においても当然ながら免れることはできない。一方で、保険料と75歳以上の被保険者の要介護認定率には相当なバラツキがある。
- 関西の個別の市町村について今後の介護保険負担のインパクトを試算すると、仮に財政面で地方交付税の追加支給が行われなかった場合、財政健全化法の判断指標のひとつである「実質赤字比率」が大きく悪化する自治体が続出することになる。2025年度には「早期健全化団体」に転落する市町村が急増し始め、2030年度以降は「財政再生団体」への移行が急増する。この間、関西の市町村の実質赤字額の合計は2008年度の83億円から、2035年度には1兆3,000億円まで累積する。
一方で、①比較的財政規模の小さな市町村は実質赤字とならない、②財政調整基金の大きなところでは一般会計の赤字化が食い止められる、との結果も得られる。 - これからの高齢化社会を支える仕組みとして介護保険は極めて重要であり、そのための財源確保は喫緊の課題である。まずは、介護保険全体のなかでの保険料、公費、利用者負担についての考え方の再検討、地域コミュニティの再生も含めた社会福祉全体のなかでの介護保険の位置付け、新しい財源の確保等について、国民的議論のなかで方向性を定めていくべきであろう。