Business & Economic Review 2011年4月号
【特集 成長するアジアと金融】
中国において強まる企業の権利侵害責任-権利侵害責任法の施行を受けて
2011年03月25日 星貴子
要約
- 中国では、1979年の改革開放への政策転向以降、権利侵害行為に関する法制度が整備され、90年代半ばまでに、著作権や特許権などの知的財産権の保護、製造物責任(PL)、環境保護など、一連の法制度が施行された。しかしながら、規定にはもとより曖昧な部分が少なくないうえ、権利侵害行為の多様化・複雑化に対応できていなかったため、これら法律の実効性は強くなかったといわれている。もっとも、WTO加盟の条件として規制緩和や法制度の整備が求められたことから、2001年以降、消費者や所有者などの権益を保護することを目的に、段階的に知的財産権に関する法律や製造物責任に関する法制度などの整備が進められた。なかでも、2010年施行の権利侵害責任法は企業が負うべき責任を明確に規定するとともにその範囲を拡大していることから、今後、企業に対する責任追及が一段と強化され、経営や事業活動に大きな影響を及ぼすことが予想される。
- 権利侵害責任法は、公平かつ公正な社会発展を促進するため消費者や所有者など必ずしも契約関係が想定されていない一般国民の権利・利益を保護することを目的に制定された。同法は、製品品質法および環境保護法など従来の法律・条例を取りまとめ統一ルールを規定するとともに、ネットサービス業者に対する企業責任や、製造物責任、環境汚染責任などの形態別に企業責任を強化する規定を盛り込んでいる。さらに、補填賠償のみならず、慰謝料や懲罰的賠償を認めているほか、被害者救済の方法として瑕疵のある製品のリコール、土壌汚染除去などの原状回復、侵害行為の防止・排除、被害者の名誉回復などが規定されている。同法の施行によって、企業が権利侵害責任を追及されるケースが増大するばかりでなく、損害賠償のほか製品回収や汚染除去に要する費用など企業責任を果たすためにかかる財務的負担が従来以上に大きくなることが予想される。このため、これまでのような対策では十分に対応できない可能性がでてきた。
- こうしたことを踏まえると、権利侵害責任法に対応するためには、自社の業務内容と権利侵害責任法の規定とあわせ、ⅰ)発生する可能性の高い権利侵害は何か、ⅱ)それによって被権利侵害者にどのような影響を及ぼすか、ⅲ)自社がどのような影響を受けるかを分析し、対応策を策定するとともに、それを適時見直し、必要に応じて内容を改定することが求められる。さらに、PLや知的財産権など対応が難しく複雑化する可能性が大きい問題が増加していることから、専門部署の設置や専門スタッフの配置などリスク管理体制を強化・拡充するとともに、損害賠償やその他のリスク対応費用に対する財務的な備えを拡充することが必要である。リスク対応費用についてはリコールや環境汚染などは発生頻度や規模が予測不可能なため、保険による填補が困難となるケースがでてくる可能性があることから、損害保険を補完するようなリスクファイナンス手法(保険ディバティブ、保険リンク証券)などを用いることも一つの対応策として挙げることができよう。